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『愛のメモリー』あらゆるオブセッションが絡み合う、アンチモラルなラブストーリー ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『愛のメモリー』あらゆるオブセッションが絡み合う、アンチモラルなラブストーリー ※注!ネタバレ含みます。

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バーナード・ハーマンの“オブセッション”



 バーナード・ハーマンといえば、『市民ケーン』(41)、『地球が静止する日』(51)をはじめ、数多くの映画作品に音楽を提供してきた名作曲家。そして彼は、『知りすぎていた男』(56)、『北北西に進路を取れ』(59)、『サイコ』(60)など、アルフレッド・ヒッチコックの音楽を支えてきた人物でもある。もちろん、『めまい』も彼の手によるスコアだ。


 元々プロデューサーのジョージ・リットーが念頭に置いていた作曲家は、『ジョーズ』(75)の大ヒットで株を大きく上げていたジョン・ウィリアムズ。だがデ・パルマは、「『めまい』にインスパイアされた映画なのだから、『めまい』を作曲した人物に依頼すべきだ」と考えた。彼は、マイケルがサンドラの後を追ってフィレンツェの街を彷徨うシークエンスに、『めまい』の音楽をインサート。どこか不安定で哀切に満ちたメロディーによって、マイケルの強烈な恋慕が強調され、映画のエモーションが劇的に高まることをプロデューサーに証明してみせた。


 かつて自分が手がけた映画と似たような作品のオファーを、バーナード・ハーマンは意外にも快諾。むしろ彼は、このプロジェクトにすっかり魅了された。ブライアン・デ・パルマに手渡したスコアに、「私の音楽人生の中で、最も素晴らしい映画をありがとう」という謝辞が書かれていたというエピソードも残っている。バーナード・ハーマンにとってこの作品は『めまい』のイミテーションではなく、それ以上のフィルムだったのだ。



『愛のメモリー』(c)Photofest / Getty Images


 バーナード・ハーマンが『愛のメモリー』に心惹かれた理由は、もう一つある。サンドラを演じたジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドだ。ハーマンはラッシュで彼女の演技を見て、あっという間に心を奪われてしまう。いや、「スクリーン越しに恋してしまった」と書いた方が正しいかもしれない。


 こんなエピソードがある。レコーディング・スタジオにジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドが突然現れ、「(マイケル役の)ロバートソンは(演技の中で)愛してくれませんでしたが、あなたは音楽で私を愛してくれました」とハーマンに感謝を述べたというのだ。彼は感激のあまり、涙ぐんでしまう。バーナード・ハーマンがシナリオの改変を強硬に主張したのは、単に作品の良し悪しではなく、彼女に対する想いが強すぎたのかもしれない。


 ブライアン・デ・パルマとバーナード・ハーマンのコラボレーションは、これが最初で最後となってしまった。ハーマンはその次に手がけた『タクシードライバー』(76)のスコアを完成させた後、64歳でこの世を去る(監督のマーティン・スコセッシにハーマンを推薦したのはデ・パルマだった)。


 彼の死後、妻はハーマンの財布の中からある写真を見つけた。それは家族の写真でも友人の写真でもなく、ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドだったという。デ・パルマやポール・シュレイダーと同じく、彼もまた『愛のメモリー』…Obsession(オブセッション)という一本の映画に狂わされてしまったのである。


https://cinephiliabeyond.org/obsession-de-palma-stepped-hitchcocks-shadow/



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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