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『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』90年代若手カリスマたちが巻き起こすダークで奇妙な化学反応

(c)Photofest / Getty Images

『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』90年代若手カリスマたちが巻き起こすダークで奇妙な化学反応

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二人の奇跡的な化学反応とは



 かくも『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』という映画には、トムとブラピの俳優としての生存本能をドキュメンタリー的に見つめる面白さがある。二人はこの映画において、数時間をかけて特殊メイクを準備する過酷な体験をした。一説によるとメイク前に30分間逆立ちして、いったん顔面の血液の流れを確認した上で、それをなぞるようにして青白く浮かぶ生々しい静脈を描いていったとか。


 また、吸血鬼の活動は夜間に限られるため、自ずと撮影は夜間に集中した。そのため昼は寝て、夜に活動するまさに吸血鬼さながらの日常がキャストとスタッフには課せられた。このような毎日がよほどこたえたのか、ルイ役のブラッド・ピットは本作の撮影で疲労困憊し、精神的にもかなり参ってしまったと言われる。これには彼が演じる役柄も影響していたのは明らかだ。愛する家族を失って絶望し、レスタトによってことごとく運命を翻弄され、祖国から遠く離れてヨーロッパを彷徨い、生きているような死んでいるような状態で200年という時を孤独に歩み続ける・・・。こんな追い詰められた役柄に身と心を委ね続ければ、参ってしまうのも当然だろう。


 これに比べてトムはどうかというと、どんどん覚醒していくというか、クライマックスに向けてむしろ目が爛々と輝きを増しているようにも思える。彼が心底楽しみながら演じていたであろうことは、今なお新作のたびに自身に過酷なGをかけ続ける彼の映画づくりのあり方からも、容易に想像できる。



『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(c)Photofest / Getty Images


 結果的に、ブラピは悲壮感に満ちた表情でこの役を脆く繊細に演じきり、これに対してトムは暗黒のカリスマ性を惜しげもなくあらわにしながら本作を席巻していった。二人の役柄と演技が全て完璧なほどマッチして、決して計算などでは導き出せない奇跡的なまでの化学反応がフィルムに刻印されたのである。


 映画を観た原作者アン・ライスはその仕上がりに大いに満足した。その上で、トム・クルーズの起用に反対したことを謝罪し、彼の演技を大いに讃えたといわれる。優れていたのはトムだけではない。ダブル主演のブラピはもちろんのこと、天才子役として注目を集めたキルステン・ダンスト、西洋ヴァンパイアとして異才と風格を放ったアントニオ・バンデラス、その傍らで狡猾にせせら笑うスティーヴン・レイ(ニール・ジョーダンの前作『クライング・ゲーム』の主演ぶりとは真逆だ)、そして、急死したリバー・フェニックスに代わっての登板となったクリスチャン・スレーターに至るまで、皆が各々の役を的確にこなしたまさに一級品。


 本作に触れるたび、つくづく俳優という生き物は、時と場所を超えてあらゆる役柄の生き血を吸いながら、映画館という暗闇の中で永遠に生き続ける存在だと、強く思い知らされるのである。



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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