ダークヒーローに命を吹き込んだ俳優の熱意
誰よりも本作の企画を推進させたのは、主演とともに製作を務めたウェズリー・スナイプスだろう。主演の候補にはデンゼル・ワシントンやローレンス・フィッシュバーンも挙げられていたが、スナイプスは彼ら以上にアクション映画の経験がある。また、当時スナイプスは同じマーベル原作の「ブラックパンサー」の映画化を企画するも挫折したばかりだった。黒人俳優がコミックヒーローを演じる、当時としては珍しい企画に、彼は意欲を持って取り組んだ。
子どもの頃から武術を学んできたスナイプスは、ブレイド役にうってつけで、それまでにも『パッセンジャー57』(92)や『デモリッション・マン』(93)など、マーシャルアーツの素養を活かしてアクション映画に貢献していた。“アメリカのアクション映画はスペクタクルに頼っているが、他国の映画は違う”と、アジアのカンフー映画を愛する彼は言う。“アクションが登場人物の精神状態や意思と一致している。だから観客はキャラクターに感情移入できるんだ”――この彼の哲学は『ブレイド』にも注ぎ込まれた。
『ブレイド』(c)Photofest / Getty Images
臨月の母親が吸血鬼に噛まれたことで、ハーフブリードとして生まれたブレイドは出生を呪い、吸血鬼に対して激しい怒りを抱いている。地下クラブにたむろしていたバンパイアを次々と抹殺するブレイドの戦いを描いた冒頭からして、そんな感情が十分に伝わってくるだろう。特殊な剣や手裏剣といった武器による攻撃に加え、肉弾戦でも凄みを発揮するブレイドは、吸血鬼に対しては、とにかく情け容赦がない。この主人公は、まさに情念に裏打ちされたバトルを繰り広げているのだ。
ダークなドラマではあるが、描写はアップテンポ。スナイプスのキレのある肉弾アクション演技を的確にとらえながら、キメのポーズを瞬時に入れ込みつつ、コミックのようにポップに描いている点が妙味だ。ブラックのコスチュームをまとった主人公のクールなたたずまい、武器に貫かれる度に凄まじい血しぶきが上がるバイオレンスの壮絶さ、そして敵を倒してガッツポーズを見せるオチャメさのユーモア。ダークヒーローを描いたアクション映画にあるべき、さまざまな要素が、ここには高濃度で詰まっている。