そして21世紀、ブレイドは帰ってくる!
ブレイドとヴィランであるフロストの対決の構図も面白い。ブレイドは黒人で筋骨隆々、悲壮を背負う戦士的なキャラだが、対するフロストは白人で洒落者、頭脳明晰な皮肉屋。吸血鬼であることを除けば、今風のスノッブな若者のように見える。演じるスティーヴン・ドーフは『バックビート』(94)で主演を務めて脚光を浴びた以降も、ハリウッドの派手なエンタメ作品を避けて、主にインディーズ映画で活躍していた。それでも、『ブレイド』の脚本を読んだ彼は、これは今までのアクションとは違うと感じ、出演を決意したという。
ドーフの撮影初日に撮られたシーンは、映画の中盤、繁華街の公園で少女を人質にとりブレイドと初めて対峙する場面。撮影への初参加ということもあり、気負ったドーフは、うまく演技できなかったことを認めている。スナイプスもプロデューサーとして、そんな彼に意見したことから、彼らの関係は少々気まずくなった。しかし、これが功を奏する。彼らの共演場面はクライマックスの対決までない。以降、各々が顔を合わせることがないまま、それぞれのシーンの撮影を進め、最後の対決の場面ではテンションが高まった状態で演技をし、それが映画の緊張感を高めるうえで効果を発揮した。
『ブレイド』(c)Photofest / Getty Images
黒人のヒーローが白人の悪党と戦うというと、1970年代のブラックスプロイテーション映画の匂いも感じられだろう。しかし、本作はあくまでコミックをベースにして、超現実の世界を描くエンタテインメントだ。ブレイドの活躍は痛快だが勧善懲悪には収まらず、従来の吸血鬼映画の枠を飛び越えた現実性を宿しながらも、アクションは非現実的なほどクレージー。『ブレイド』が快作となりえたのは、これらの要素が上手く絡み合ったから、だ。
4,500万ドルという製作費は、前年公開のアメコミ映画『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(97)の1億2千万ドルに比べると低予算だが、『ブレイド』は同作とは異なり、北米の興行収入だけでプラス収支を記録。この好評を受けてシリーズ化され、02年には当時売り出し中だったギレルモ・デル・トロ監督を迎えて第2弾、04年には生みの親ゴイヤーが監督を務めた第3弾が製作された。
一方、マーベルは『ブレイド』の成功に弾みをつけ、2000年に『X-メン』、2002年に『スパイダーマン』を世に放ち、大きな成功を収める。そして2008年には、記念すべきMCU第一作『アイアンマン』が作られ、そこから『アベンジャーズ』などに連なる華々しい歴史を刻んでいく。ちなみに2024年には、MCUの一環としてブレイドの新たな物語が、『グリーンブック』のマハーシャラ・アリの主演で製作される予定というから嬉しいかぎり。四半世紀を経てマーベル映画の歴史が一巡することに、ちょっとした感慨を覚える。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
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