2022.11.15
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』あらすじ
ティ・チャラの死から一年後、妹のシュリ(レティーシャ・ライト)と母親のラモンダ(アンジェラ・バセット)はいまだ悲しみに暮れていた。そんな中、若き国王を失ったワカンダは、国際社会でも不穏な状況に置かれていた。ワカンダで産出される貴重資源・ヴィブラニウムをめぐり、アメリカやフランスなど巨大国家のプレッシャーを受けていたのだ。他国は独自にヴィブラニウムの探査を実施しているが、ある時、アメリカの探査チームが海底文明・タロカンに接近。タロカンを治めるネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)は、自国の問題解決に尽力せよとワカンダに要求。海底に下りてきたヴィブラニウム探査機の開発者を探し、タロカンに連行するよう、シュリとラモンダに迫るのだった。
「まずはパーソナルなところから始めたい。それ以外に映画の作り方を知らないから」。おそらくマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)史上最大の難関となった本作を手がけたライアン・クーグラー監督は、とある取材でこう語った。
2020年8月、ブラックパンサー/ティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンが大腸がんのためにこの世を去った。本人はがんに打ち勝って続編に出演するつもりだったようで、闘病の事実を周囲にはほとんど明かしていなかったという。クーグラー監督と、マーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長のもとに連絡が入ったのも、チャドウィックが危篤状態になってからだったそうだ。
当時、クーグラー監督は『ブラックパンサー』(18)の続編となる映画の脚本を完成させていた。チャドウィックとともにティ・チャラとワカンダを作り上げたのち、監督はすぐに続編の執筆に入っていたのだ。ところが、残念ながらその脚本をチャドウィックが読むことはなかった。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)を経たMCUの世界で、ティ・チャラはあらゆるヒーローを牽引していく存在となるはずだった。しかしチャドウィックの急逝を受け、マーベル・スタジオは代役を起用しないことを決定。CGで生前の姿を再現することもしないという方針となり、ティ・チャラも『エンドゲーム』ののちに病没した設定となった。
映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(22)はMCU史上、いやスーパーヒーロー映画史上初となる、主役不在の続編映画だ。すなわち、スーパーヒーローのいないスーパーヒーロー映画なのである。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』予告
Index
MCU屈指のポリティカル・スリラー
ティ・チャラの死から一年後、妹のシュリ(レティーシャ・ライト)と母親のラモンダ(アンジェラ・バセット)はいまだ悲しみに暮れていた。とりわけ、兄を救うことができなかったシュリは後悔と自責の念に苛まれ、研究に没頭する毎日。とても精神的に安定している状況とは言えなかった。女王であるラモンダは、「死は終わりではない、出発点である」というワカンダの伝承を心の支えにするが、現実主義者のシュリにはそれも受け入れられない。
そんな中、若き国王を失ったワカンダは、国際社会でも不穏な状況に置かれていた。ワカンダで産出される貴重資源・ヴィブラニウムをめぐり、アメリカやフランスなど巨大国家のプレッシャーを受けていたのだ。他国は独自にヴィブラニウムの探査を実施しているが、ある時、アメリカの探査チームが海底文明・タロカンに接近。大西洋にて大勢が死亡する事件が発生し、ワカンダの攻撃ではないかという疑いがかけられる。
かつてのワカンダと同じく、海底深くにその姿を隠しているタロカンにとって、ワカンダの開国は百害あって一利なしだった。諸外国がヴィブラニウムを求めた結果、探査の手が海底まで伸びてきたのだ。タロカンを治めるネイモア(テノッチ・ウエルタ・メヒア)は、自国の問題解決に尽力せよとワカンダに要求。海底に下りてきたヴィブラニウム探査機の開発者を探し、タロカンに連行するよう、シュリとラモンダに迫るのだった。
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』©Marvel Studios 2022
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の軸となるのは、ワカンダとタロカン、そして第三国の介入という政治的緊張だ。ヴィブラニウムを挟んだ対立が、やがて人を挟む対立に変わり、そして国家間の衝突に結びついていく。MCU作品としては『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)以来となる本格ポリティカル・スリラー(あるいは地政学的スリラー)だが、同作にはキャプテン・アメリカというヒーローがいた。一方、本作に登場するのは政治家や軍人、科学者ばかり。MCU屈指の緊迫感とリアリズムだ。
シュリやラモンダをはじめとするワカンダの人々は、タロカンの脅威に対峙し、第三国の圧力にも向き合いながら、戦争の勃発を回避することができるのか? 2022年、最もアクチュアル(同時代的)なテーマをはらんだ物語が展開することになる。もっとも、ここに記したことは、映画のまだほんの序の口にすぎないのだが。