ウォルター・マッソーの“意外な”キャスティング
『突破口!』の原作は、ジョン・H・リースが1968年に発表した犯罪小説「The Looters」。元曲芸飛行士のチャーリーは、妻のネイディーン、相棒のハーマンとアルの4人で田舎町の銀行を襲う。だが撃ち合いとなって警官を射殺、ネイディーンとアルも命を落とす。しかも強奪した75万ドルはマフィアの隠し金だったことが発覚し、チャーリーは警察とマフィアの両方から追われる羽目に…というストーリー。
ドン・シーゲルは『突破口!』を、これまで以上にセックスとバイオレンスに満ちた映画にしようと意気込んでいた。主役のチャーリーには、ドナルド・サザーランドをキャスティング。ユニバーサル・ピクチャーズとは、レーティングがR指定(17歳未満は保護者同伴)になることの同意も取り付けていた。だが往々にして、映画スタジオというものは監督との約束を反故にするものである。約束していたR指定はPG指定(保護者の判断が必要)となり、シナリオは大幅に書き換えられ、チャーリー役も変更となってしまった。
『突破口!』予告
ドナルド・サザーランドに代わって抜擢されたのは、ウォルター・マッソー。『恋人よ帰れ!わが胸に』(66)、『おかしな二人』(68)、『フロント・ページ』(74)など、盟友ジャック・レモンとのコンビで、妙洒脱な都会派コメディに数々出演してきた喜劇俳優である。意外なキャスティングだが、彼ならば客を呼べるというスタジオ側の判断だったのだろう。だが、蓋を開けてみれば興行は大失敗。ドン・シーゲルは、ウォルター・マッソーが「この映画を好きでもなければ、理解もしていない」と公言し、その態度が不入りの原因だと断罪した。彼の自伝「A Siegel Film: An Autobiography」には、ウォルター・マッソーから送られてきたというテープ録音の内容が抜粋されている。
「何が起こっているのかを説明する、仕掛けが必要だと思うんだ。私は3回読んだけど、IQ120の平均よりも少し良い知能を持っているにも関わらず、まだ何が起こっているのかよく分からない。でも説明されたからこそ、理解できたんだ。映画館に座っている人たちには、今観ているものを説明する方法はない。なぜ説明しないのか?」(*2)
必要最低限な情報を、最も効率的なショットで観客に提示し、簡潔にストーリーを紡いでいく。それがドン・シーゲル流演出術。ウォルター・マッソーが主張する“説明過多な作劇”なんぞ、もってのほか。もちろん筆者は、断固ドン・シーゲルを支持するものであります。