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『突破口!』溢れるラスト・オブ・ザ・インディペンデントの精神 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『突破口!』溢れるラスト・オブ・ザ・インディペンデントの精神 ※注!ネタバレ含みます。

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『北北西に進路を取れ』オマージュ



 筆者はこの映画を見返すたびに、その贅肉のないタイトなストーリーテリングに感嘆してしまう。オープニングで映し出されるのは、朝を迎えたニューメキシコ州の田舎町。馬に鞍をつけたり、水撒きをしたり、のどかな光景がインサートされていく。そして、銀行の前に停車する黄色のリンカーン・コンチネンタル。彼らが強盗団であることが分かると、一気に映画は不穏な影を帯びていく。冒頭のピースフルなショットとのコントラストが見事だ。


 そしてチャーリーが銀行で銃を構えた瞬間、カメラは猛スピードで横にパンし、仮面をかぶった二人の仲間たちを捉える。冷静に考えたら、いかにも強盗丸出しの彼らがあっさり銀行に侵入しているのはかなり無理筋なのだが、いつ、どこから入ってきたのかは、一切説明されない。そんなつまらないお作法をダラダラ見せるくらいなら、リアリズムなんか一切無視して、ケレン味のある演出で観客をケムに巻いてしまう。


 もちろん、セリフでストーリーを説明するような、安易な方法なんか採らない。状況は登場人物が語るのではなく、映像が語るのだ。チャーリーたちが何者なのか、なぜ銀行強盗に手を染めるようになったのか、そんなバックボーンなんかガン無視。愛する妻が死んでしまっても、感傷に浸るヒマはなし。まるで精巧な時計のように、物語は進んでいく。極めて理知的な脚本と言えるだろう。



『突破口!』(c)Photofest / Getty Images


 だがその理知的とは真逆な、ナンセンスとか言いようのないシーンも『突破口!』には登場する。ズバリ、クライマックスのプロペラ機と自動車のカーチェイス。こりゃ一体なんなんだ。もはや、異種格闘技戦のような趣き。手に汗握るというよりも、“絵”としての面白さに目が釘付けになってしまう。バカっぽいシーンも、ドン・シーゲル先生は抜かりなくサービスしてくれるのである。最高ですね。


 ちなみに筆者は、これはアルフレッド・ヒッチコック監督の『北北西に進路を取れ』(59)オマージュなのではないか?と妄想している。農薬を散布していた軽飛行機が、突然主人公を追いかけ回すというあの有名なシーンだ。チャーリーも表の顔は、飛行機で農薬を散布する業者。しかもカーチェイスの直前、彼はベッドインした美女とこんな会話を交わしている。


「まだ南南西が残っているわ」

「済んだら寝るか?」

「そうね」

「南南西か。こっちの方かな」


 あらゆる向きで情事を楽しんだものの南南西だけが残っていた、というピロートーク。完全に“北北西”を意識したセリフではなかろうか?




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