エリザベス・テイラーからシャーリー・マクレーンへ
オリジナルの脚本を執筆したのは、バッド・ベティカー。『最後の酋長』(53)や『七人の無頼漢』(56)、『反撃の銃弾』(57)など、生涯にわたって西部劇を作り続けてきた映画監督である。彼はこの作品を、ジョン・ヒューストンが監督した『白い砂』(57)に続いて、ロバート・ミッチャムとデボラ・カーが主演を務める企画として考えていた。
『白い砂』の舞台は、第二次世界大戦真っ只中の1945年。日本軍との戦いが続く南太平洋の孤島で、アメリカ海兵隊員と修道女のサバイバルが描かれる。バッド・ベティカーはこのプロットにインスパイアを受けて、「ロバート・ミッチャム演じるカウボーイと、デボラ・カー演じる尼僧が惹かれ合う」というストーリーを組み上げていった。さらにベティカーは、「尼僧の正体は、革命軍からアメリカに逃れてきたメキシコ人貴族」という設定をプラス。『白い砂』では、無骨な男性と神に仕える女性との恋が成就することはなかったが、尼僧は仮の姿だったというアイディアを導入することで、より恋愛劇としての側面が強まると考えたのだ。
『真昼の死闘』(c)Photofest / Getty Images
バッド・ベティカーは自らの手で監督する気満々だったのだが、結局シナリオは売られることに。映画化に乗り出したプロデューサーのマーティン・ラッキンは、メキシコ在住の脚本家アルバート・マルツにリライトを依頼。最終的にシスター・サラは貴族ではなく、革命派に力を貸している売春婦という設定に書き換えられた。
当初ユニバーサル・ピクチャーズがシスター・サラ役の候補に挙げていたのは、エリザベス・テイラー。なるほど、エキゾチックな美貌を誇る彼女ならば、メキシコの尼僧役にはピッタリだろう。だが彼女が、夫の俳優リチャード・バートンに付き添うためスペインでの撮影を希望したのに対し、スタジオ側はメキシコでの撮影を提示。結局物別れとなり、エリザベス・テイラーは出演を辞退してしまう。
そこで新たにキャスティングされたのが、シャーリー・マクレーン。エリザベス・テイラーに負けず劣らずのスターであり、この時点でアカデミー賞に3度ノミネートされた実績も併せ持つ大女優。客を呼ぶには十分なネームバリューだ。だが彼女の透き通るように白い肌は、とてもメキシコ人には見えない。慌てて「アメリカからメキシコにやってきた外国人」という設定に書き直され、サラがなぜ革命派に力を貸しているのかが若干分かりにくいストーリーになってしまった。