グレタとシアーシャ、二人が共有したレディ・バードの精神
そもそもの二人の出会いは大物プロデューサー、スコット・ルーディンの紹介によるものだという。スコットはかねてより二人の作品に大きく関わり、それぞれの映画人としての成長を支えてきたことでも知られる。
また、シアーシャはかねてよりグレタのファンで、特に『 フランシス・ハ』(12)は大のお気に入りだとか。それゆえグレタと一緒に仕事ができるこの機会を逃すことは彼女にとってありえない話だった。
完成した脚本にも目を通し、その後、Skypeなどを通じて二人が言葉を交わすことはあったが、ようやく対面できたのは2015年のトロント映画祭の折。当時、グレタは『 マギーズ・プラン』(15)のため、シアーシャは『 ブルックリン』(15)のために現地入りしており、二人の初対面はシアーシャが滞在するホテルの一室で実現することとなる。
『レディ・バード』©2017 InterActiveCorp Films, LLC.
部屋を訪れたグレタはちょうど『 20センチュリー・ウーマン』(16)の撮影期間中でもあったことから、役作りのために髪の色を赤く染めていた。それから約1年後、まさか今度は自分が髪を赤く染める立場になるなんて、この時のシアーシャには想像もつかなかったことだろう。
部屋に入って挨拶を交わした後、二人はすぐさま集中して脚本に真向かった。シアーシャがレディ・バード役。その他のセリフはグレタが代読。そんな役割分担にて読み合わせが始まり、シアーシャがいくつか主要なセリフを口にした瞬間、グレタの中で「彼女で決まりだ!」という思いがほとばしったという。その時の印象を彼女はこう語る。
「私の想像と全く異なり、それを遥かに超えていた。強情でひょうきんで、ワクワクさせられたの。また普遍性と独自性も持ち合わせていた」
『レディ・バード』©2017 InterActiveCorp Films, LLC.
その後、シアーシャ・ローナンはしばらくの間、ブロードウェイ・デビューとなる舞台「るつぼ」(スコット・ルーディンがプロデュース)へと身を投じることになるのだが、その間もグレタからは役作りの手がかりとして 映画、小説、詩、歌、写真などが少しずつ提供されたという。
一方、シアーシャはグレタの演出術についてこう語っている。「彼女は私を素晴らしい手腕で導いてくれて、なおかつ、私が自分の力で役柄について見つけ出す余地を与えてくれた」
グレタは、歩き方、話し方、座り方、衣装などに関して何でもシアーシャに相談しながら取り決めていったという。そうやって二人の個性やクリエイティビティを融合させた地点で初めて、このレディ・バードというキャラクターは具体性を持って濃厚なまでに浮かび上がっていったのだ。