伝説となりそうなニキビを生かした役作り
実は、ブロードウェイの仕事を終えたシアーシャ・ローナンの顔には、長期にわたってメイクと照明の洗礼を受けたことでニキビができていたという。
こういった場合、通常の撮影ではニキビが見えないようにメイクや照明などで「隠す」作業が施されるケースも多い。しかしシアーシャはこの青春のシンボルを隠さずに「見せる」ことを決断した。それはこれまで多くの青春映画が踏み込めなかったリアリティの境地と言えるもの。シアーシャはこの業界の常識をいとも鮮やかに覆し、キャラクターに新風を吹き込ませたのである。
『レディ・バード』©2017 InterActiveCorp Films, LLC.
このエピソードに触れるや、“レディ・バードの精神”がグレタからシアーシャへと受け継がれる様子が目に浮かんだ。それも髪の色のみならず、その体内にしっかりと同じ魂を共有しているように思えてならない。
ニキビだけではない。他にも微に入り細に入り、シアーシャとグレタは少しでもこの映画やキャラクターの魅力を深めようと努力を惜しまなかったし、スタッフや共演者たちもまた、それに呼応するかのように尽力したのは言うまでもない。この映画は全てがそんな宝石のごとき輝かしい瞬間の連続なのだ。
私たちがこの映画に触れ「これは私の映画だ!」と感じるのは、きっとこのように努力と情熱が丁寧に積み重ねられた結果なのだろう。だからこそ私たち一人一人が胸にしまっておいた大切な思い出とも深く共鳴し、鑑賞しながら、胸の中が高揚感と甘酸っぱさと痛みと、そして心の底からの愛情とで一杯になる。こうやって辿り着いた境地はまさに「普遍性」と呼んでしかるべきものだ。
また一つ、同時代に生まれたことを誇れるような青春映画がここに誕生した。是非この傑作を見逃すことなく、今後の映画界を背負って立つ二人の女性の創造性を心ゆくまで堪能してほしい。
参考)
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-43032868
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『レディ・バード』
6月1日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
配給:東宝東和
©2017 InterActiveCorp Films, LLC.
Merie Wallace, courtesy of A24
※2018年6月記事掲載時の情報です。