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『別れる決心』不確かな記憶と視覚、人生における「解決」とは

© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED

『別れる決心』不確かな記憶と視覚、人生における「解決」とは

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錯覚と分裂



 『別れる決心』には複数の視点が混在する。本作のファーストショットが、柱を挟んだヘジュン(パク・ヘイル)と部下のスワン(コ・ギョンピョ)による銃撃訓練のショットであることは、分裂というテーマを巧妙に表わしている。上司と部下は柱を挟んだ、いわば疑似分割画面に並んで収まっている。しかし本作における「二人のイメージ」は、鏡像であって鏡像ではない。ヘジュンが相手への親しみを伝えるために使う”私たち”という言葉は、部下のスワン、妻のジョンアン(イ・ジョンヒョン)、そしてソレによって、ことごとく疑問を投げかけられる。あなたとわたしは似ているかもしれないけど、同じではない。


 『お嬢さん』(16)における『レベッカ』(40)の参照がそうであったように、パク・チャヌクにとって、アルフレッド・ヒッチコックの映画はフェティッシュな愛情の対象でもある。本作においては、『めまい』(58)をはじめとするヒッチコック映画のイメージの書き換えが施されているが、パク・チャヌクの中で血肉化されたそれらの参照イメージは、もはやオマージュであること以上に、パク・チャヌクの映画としての独特の機能と優雅さを纏っている。似ているかもしれないけれど、同じではない。


「衣装に関しても”こういう照明では緑に見え、別の照明では青に見えるドレスがいい”と、衣装デザイナーに色の使い方を提案しました。そして、それをそのまま脚本に反映させました」(パク・チャヌク)*2



『別れる決心』© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


 本作では物語的、そして映像技巧的なテーマとして、目の錯覚、勘違いに主軸が置かれている。強烈な印象を残すソレの美しい緑の衣装は、光の強さや角度によって青にも見える。ソレの部屋の壁紙には海が描かれているが、見方によっては山のようにも見える。本作の衣装、そしてプロダクションデザインの素晴らしさはペドロ・アルモドバルの映画の領域に迫っている。


 ソレは夫を崖から落とした容疑をかけられる。ソレとヘジュンが向き合う取調室には大きな鏡と複数のモニターがある。取調べ中にソレは一瞬笑ったかもしれない。ヘジュンの同僚たちが騒ぐ。しかしモニター越しに確認するソレの笑顔は、もしかしたら錯覚かもしれない。ヘジュンは仕事中によく目薬をさす。目の前の対象を正確に見るために。ヘジュンは几帳面で自分の仕事にも誇りを持っている男性だ。しかし正確さを求めて対象に迫れば迫るほど、ヘジュンの視界が捉える輪郭はどんどん曖昧になっていく。




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