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『別れる決心』パク・チャヌク監督 繊細で優雅、深みのある映画にしたかった【Director’s Interview Vol.281】

『別れる決心』パク・チャヌク監督 繊細で優雅、深みのある映画にしたかった【Director’s Interview Vol.281】

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パク・チャヌク自身が公言しているように、本作『別れる決心』は暴力とセックスからは距離が置かれている。にも関わらず、パク監督特有の“煽情”は視覚化されないところで確実に存在する。舞台となる街のように霧に包まれたこの映画に誘われ、我々はいったいどこへ連れて行かれるのか。“思わせぶり“だらけのこの映画、パク・チャヌクでなければ完成させることは不可能だろう。まさに手練れの技、至高の演出、計算され尽くしたビジュアルにはため息しか出てこない。


パク・チャヌクは如何にしてこの映画を作ったのか、来日した本人に話を伺うと、静かに淡々と語ってくれた。



『別れる決心』あらすじ

男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュン(パク・ヘイル)と、被害者の妻ソレ(タン・ウェイ)は捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった・・・・・・。


Index


繊細で優雅、深みのある映画にしたかった



Q:パク監督の映画には独特のリズムがあり、監督は稀代のストーリーテラーだと思います。決して物語にグイグイ引き込むのではなく、気がつくとパク監督の掌の上で転がされているような感覚がある。特に今回は主演の二人が感情を抑制しているため、それを強く感じました。どのようにして、この物語を作られたのでしょうか。


パク:ありがとうございます。脚本家のチョン・ソギョンさんと話し合い、暴力的でセクシャルな表現は今回出来るだけ無くそうと決めました。繊細で優雅、そして深みのある、何かを隠しているような感覚の映画にしたかった。“I love you”という言葉を一度も発しない、そんなラブストーリーを作ってみようと。ただし、いくら繊細で優雅でも、観客に感じてもらえなければ意味がない。だからこそ、俳優の目の動きや揺らぎ、微妙な表情を捉え、それを映画的なカメラワークや編集で補いながら表現しました。


今回はタン・ウェイさんとパク・へイルさんに演じてもらいたかったので、まだ脚本が出来上がっていない段階で二人にお会いして、どういう映画になるかを全て言葉で説明しました。作品が完成した後で、「初めて会ったときに話してくれた通りになりましたね」と二人が言ってくれました。もしかすると、脚本前の段階においてこの映画はある程度出来上がっていたのかもしれません。


また、チョン・ソギョンさんとは、単語一つ一つさえも話し合いながら脚本を書いていきました。よってこの物語には二人の考えがちょうど半分ずつ入っています。二人の考えを細かく区別はできませんが、山で始まり海で終わる物語にしたのは彼女のアイデアです。



『別れる決心』© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED


Q:扱うテーマが復讐から愛に変わりましたが、監督にどのような心境の変化があったのでしょうか。


パク:私が「今までもそうであったように、今回もまた新しい愛の映画を作りました」と言うと、皆笑うんです。決して笑わせようと思って冗談を言ったわけではありません。復讐劇の代表作『オールド・ボーイ』(03)でも愛情を描いていますし、『渇き』(09)や「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」(08・TV)にしてもそう。今まで作ってきた作品の大部分において、愛情というものが様々な形で盛り込まれています。


私が「愛の映画を作りました」と言うと、皆なぜ笑うのだろうと数年前から考えていました。よくよく考えてみると、暴力的でセクシャルな肉体的表現の部分が強すぎて、ともすると内面的な愛情やロマンスの部分を観客は忘れているのかもしれない。それで今回は暴力やセクシャルな場面を抑えたんです。「愛の映画を作りました」と言っても笑われることのないようにね(笑)。でも次にまた『オールド・ボーイ』のような作品を作ったとしても、「パク・チャヌクがまた新しい形の愛の映画を作ったんだな」と言ってもらえるようにしたい。それを楽しみにしています。




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