“目”を強調した意味
Q:この映画のビジュアルは圧倒的です。撮影や美術、そしてロケーションと、全ての要素が絡んだ結果だと思いますが、映える画作りはもちろん、意味を暗示させるものまで、どのように撮影を進められたのでしょうか。
パク:各部門の担当者との対話が全てです。とにかく話をして議論を重ねました。まずはスタッフに脚本を熟読してもらい、撮影や美術などそれぞれが担当する表現において各自でいろんな糸口を見つけ出してもらう。それから皆で一緒にストーリーボードを作成しながら、脚本にあるものをどう視覚的に表現していくか徹底的に話し合います。それぞれのアイデアを共有して、お互いに刺激し合い作り上げていくんです。
同じく俳優ともたくさん話をします。「どうしてこうなるのか、この感情が理解できない」と言われた場合は、脚本の意図を滔々と説明します。それで俳優が納得出来れば良いのですが、納得出来ない場合はセリフを外したり変えたりすることもあります。ただしそれらは全て撮影前の話であり、現場で変えることはありません。本作に限らず常にそういうスタンスでいます。
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Q:目薬をさす、ヘッドライトの光が当たるなど、目を強調するショットが多かったように感じます。何か意図されたものはあるのでしょうか。
パク:目を強調したのは確かです。この物語は「霧」という歌からインスピレーションを受けていて、視界の悪い霧の中でもしっかりものを見ようとする、そんな人を描きたかった。歌詞の中にも「霧の中でしっかり目を開けて〜」というフレーズが実際にあるんです。その歌から物語の全てが始まったので、劇中でへジュンがしきりに目薬を指すという行為は、“ものをしっかり見る”ということの隠喩です。
一方で、ヘッドライトを頭に着けたソレにへジュンが照らされるシーンは、目薬とは少し意図が違います。ヘッドライトで真正面から照らされると表情を隠すことが出来ず、へジュンの気持ちは何もかも露わになってしまう。普段のへジュンは自分の感情を隠したがる気弱なところがあるのですが、ソレという強い光を放つ女性の前では隠すことが出来ず、全て丸裸にされてしまう。そういった二人の関係性を象徴させています。