あの人の指さえも
ヘジュンとソレは死体安置所で出会う。二人が出会った瞬間から危険なゲームは始まっている。危険だと分かりながらヘジュンはソレに惹かれていく。そしてソレもヘジュンを彼女のゲームに誘い込んでいく。ヘジュンはソレの生活を張り込み捜査するが、ソレもまたヘジュンを尾行している。そしてヘジュンが死体安置所で見たソレの手の怪我が、本作の特異な官能性の重要なモチーフになっていく。
ヘジュンとソレは何気ない指の接触を繰り返す。二人の指の接触が唇の接触よりも強いエロティックな官能性を生んでいる。どこまでもエレガントなソレの魔法は、視線と指に宿っている。ゴム手袋を装着するショットの振り付けを一つとっても、パク・チャヌクがソレ=タン・ウェイの手や指にフェティッシュな感覚を持っているのは明らかだ。そしてそれは品性の問題でもある。
『別れる決心』© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED
ヘジュンのセリフに「品とはどこから来るか?誇りです」という美しい言葉があるが、ヘジュンと同じかそれ以上の品性を持ってソレはヘジュンに接している。あの人の指さえも愛おしい。相手にそう思わせてしまうような、ゲームをする上での高貴な気品がソレには備わっている。手や指の動きから始まる所作の美しさは、ソレのすべての動きの美しさにつながっていく。いわば指先の感覚から始まる身体の発明、エレガンスの発明とでもいうべきものだ。ヘジュンが料理をする後ろでソレが咥えタバコをしながら歩く姿は、なんでもないシーンのように見えながら、ダンスの振り付けが施されたように美しい。