リスクを恐れなかったキャストは大成した
監督のステファン・エリオットは、シドニーのマルディグラのパレードで、『プリシラ』のアイデアがひらめいたという。ドラァグクイーンの頭から落ちた1枚の羽飾りが道の上を舞っている様子に、セルジオ・レオーネの西部劇の「風」を感じたそうだ。こうしてオーストラリア映画として『プリシラ』の企画が進み始めたのは1992年頃。しかしキャスティングは難航した。
バーナデット役には、『お熱いのがお好き』(59)で女装を経験したトニー・カーティスをはじめ、『ロッキー・ホラー・ショー』(75)でトランスヴェスタイトを演じたティム・カリー、さらにデヴィッド・ボウイ、ジョン・ハートらの名前が挙がり、ミッチ役はルパート・エヴェレットやコリン・ファースに打診されるも、すべて実現には至らなかった。
『プリシラ』(c)Photofest / Getty Images
当時、ハリウッドの俳優やプロデューサーの一部では、ドラァグクイーンやゲイの役を演じることが、キャリアにとってリスクと考えられていた。その固定観念を『プリシラ』は打ち破ることになる。すでに世界的知名度のあったテレンス・スタンプ(バーナデット役)は別にして、『プリシラ』を引き受けたオーストラリア出身の2人は、むしろキャリアが上向いたと言えるからだ。エリオット監督との親交から出演を決めたヒューゴ・ウィーヴィング(ミッチ役)はこの後、「マトリックス」「ロード・オブ・ザ・リング」の大ヒットシリーズに出演。そしてガイ・ピアース(フェリシア役)は『プリシラ』がきっかけで『L.A.コンフィデンシャル』(97)の大役を任され、『メメント』(00)、『タイムマシン』(02)など主演映画が続いた。
余談だが、このメインキャスト3人は、アメコミヒーロー映画の敵役を演じたという共通点もある。スタンプは『スーパーマン』(78)でクリプトンの指揮官ゾッド将軍役、ウィーヴィングは『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(11)のレッドスカルと化す狂信的な将校役、ピアースは『アイアンマン3』(13)で復讐心を募らす巨大企業の社長役だった。