2023.03.06
ボイルらしさに固執せず、より高い境地へ
『スラムドッグ』が誕生してから15年が経つ。今見てもこの映画は、既存の「ボイルらしさ」に固執することなく、さらにいえば気心しれたスタッフ同士の阿吽の呼吸だけで完結するものでもない。むしろ外からの押し寄せる要素を貪欲に飲み込み、様々な才能や人生や縁や人間関係を、パズルのように組み合わせながら、参加者全員が一丸となってゴールを目指しているところが特徴的だ。
ボイルの手がける作品には本作以降、より自由自在な、型にはまらないうねりが生まれている。まさにこれまで開かなかった扉が開いた、という印象だ。
『スラムドッグ$ミリオネア』(c)Photofest / Getty Images
この映画を通じて汗まみれ泥まみれになりながら運命を掴み取り、キャリア的に、精神的に、クリエイティビティ的に、次の段階へと進化を遂げたダニー・ボイル。『スラムドッグ』で3構造のストーリーを駆け抜け大団円を迎える主人公ジャマールは、まさにボイルそのものでもあったのかもしれない。
参考資料:『スラムドッグ$ミリオネア』『ザ・ビーチ』DVD音声解説、特典映像
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
(c)Photofest / Getty Images