Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.
『ダークグラス』アルジェント的コードが横溢する、ジャッロへの原点回帰
アルジェント的コード
『歓びの毒牙』、『わたしは目撃者』、『4匹の蝿』(71)のいわゆる「動物3部作」を手がけたこともあるダリオ・アルジェント作品には、動物がやたらめったら出てくる。特に犬が人間を襲うシーンは、もはや「アルジェントあるある」。『サスペリア』ではピアニストのダニエルが飼い犬に噛み殺されていたし、『シャドー』ではホテル管理人の娘マリアが狂犬に追いかけ回されていた。
そして『ダークグラス』には、盲導犬のネレアが登場する。彼のフィルモグラフィーを追い続けてきたファンならば、この時点でネレアが犯人を成敗してくれることは容易に想像がつく。はっきり言ってしまえば、この映画に作劇上の大きな驚きはない。殺人鬼に付け狙われた者は、きっと無惨に殺害されるだろう。ディアナとチンは、きっと恐怖の一夜を生き延びることだろう。物語は予測可能な着地に向かって、予測可能な展開通りに進んでいく。
『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.
勘違いしてほしくないのだが、筆者はこの映画をケナしているのではない。むしろ、お約束ともいえるアルジェント的コードを隅々にまで散布することで、映画としての強度を勝ち得ている、とさえ思っている。そして、流麗で息を呑むカメラワーク。強烈な悪夢は、純然たる映像的陶酔感によって生成されている。
「私の映画が素晴らしいのは、舞台美術やカメラの動きを研究し尽くした結果だからだと思います。独特な構造、未知の世界への旅、謎、凶暴で奇抜な殺人、アステカの儀式を思わせる暴力のロングショット、これらはすべて、私が映画の中で語るこの世界のイメージと結びついているのです」(*2)
ディアナがチンに「これは現実なのではなく、悪夢だと思って欲しい」と訴える場面がある。まさにダリオ・アルジェントは、生涯にわたって悪夢を、それも甘美な悪夢を創り続けてきた職人だ。ストーリー云々ではなく、日食、狂犬、絞殺、サングラス、水蛇といったアルジェント的コードに陶酔し、それを補完するカメラワークに酔いしれるべし。彼は映画がなんであるかを知り尽くした、生粋のビジュアリストなのである。
(*2)
https://www.interviewmagazine.com/film/dario-argento-suspiria-horror-movies
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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