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『ダークグラス』アルジェント的コードが横溢する、ジャッロへの原点回帰
『ダークグラス』あらすじ
ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。その4人目のターゲットにされたコールガールのディアナもまた殺人鬼によって車を衝突させられ大事故に遭い、両目の視力を失ってしまう。同じ事故で両親を亡くした少年チンとの間に絆が生まれ、一緒に暮らすこととなるが、サイコパスの殺人鬼はその後もしつこくディアナたちを殺害しようとつけ狙う。
Index
“マスター・オブ・ホラー”、10年ぶりのカムバック
“マスター・オブ・ホラー”ことダリオ・アルジェント。かつて『サスペリアPART2』(75)や『サスペリア』(77)で世界を震撼させたこの巨匠は、表舞台からすっかり遠ざかっていた。何せ、最後に発表した長編映画が2012年公開の『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』(12)である。慣れない3Dに手を出したのがまずかったのか、映画レビューサイトのロッテントマトでは14%という超低評価。その後は新作を作ることもなく、完全に“過去の人”扱いになっていたのである。
だが彼は、思いがけない形で映画界に舞い戻ってきた。ギャスパー・ノエ監督の最新作『VORTEX』(21)に、80歳にして主演デビューを果たしたのだ(相手役は、フランスの伝説的女優フランソワーズ・ルブラン!)。本作は、ある老夫婦の人生最後の時間を全編スプリットスクリーンで描いた意欲作。2021年のカンヌ映画祭でお披露目され、ロサンゼルス・タイムズは「この映画は、驚くほど献身的で感情的な2人の演技によって支えられている」と大絶賛。役者として意外な才能を見せつけた。
2021年には、映画評論家スティーブ・デラ・カーサが「Dario Argento. Due o tre cose che sappiamo di lui(ダリオ・アルジェント 彼について知っている二、三の事柄)」という書籍を発表。2022年6月には、ニューヨークのリンカーンセンターが「Beware of Dario Argento」と題されたレトロスペクティブを開催。この1〜2年で再評価の動きが活発となり、世界が再び“マスター・オブ・ホラー”を迎える準備が整いつつあった。そんな機運の中、10年ぶりとなる最新作『ダークグラス』(22)が満を持して公開される運びとなったのである。俺たちのアルジェントが帰ってきたのだ!
『ダークグラス』Copyright 2021 © URANIA PICTURES S.R.L. e GETAWAY FILMS S.A.S.
実は、今から20年前の2002年にこの作品は製作される予定だった。ダリオ・アルジェントの実娘で、女優・映画監督のアーシア・アルジェントが、主演女優を務めることも決まっていた。ところが、ロケハンの途中で制作会社が倒産。撮影は頓挫してしまい、幻の監督作品として脚本は引き出しの奥に放置されていた。
年月が経ち、アーシアが自伝を書くために父親の家で書類を漁っていたところ、長い間眠っていた『ダークグラス』の脚本を発見。今こそ作られるべき作品だと直感が働き、自らアソシエイト・プロデューサーに名乗りを挙げ、主演ではなく助演として歩行訓練士リタ役を演じ、父親の10年ぶりのカムバックを後押ししたのである。かくして完成したのは、盲目の娼婦が正体不明の殺人鬼に狙われるという、いかにもダリオ・アルジェントらしい猟奇サスペンスだった。
『ゾンビ』(78)や『デモンズ』シリーズのプロデューサーとしても活躍していたため、鮮血の美学に彩られたオカルト・ホラーの印象が強いが、監督デビュー作の『歓びの毒牙』(70)や『4匹の蠅』(71)がそうであったように、出自はジャッロと呼ばれるイタリア独自のスリラー。本作は3Dのようなニュー・テクノロジーへの挑戦ではなく、極めてオールドスクールな、原点回帰を果たした一作といえる。