スムージースタンドのミューズ
「ロンコが男性を探すのは自分の喜びのためです。男性が素敵だったとしても、それは違うのです。(中略)恋愛をしていなくても、誰とも愛し合っていなくても、不完全な人間ではない、自分の中に愛を見つける必要がある。こういった物語を作ることはとても重要なことだと思います」(エレオノーラ・カウハネン)*
スムージースタンドにおける親友二人の「目撃」が面白い。二人はそれぞれの出会いの瞬間を代わる代わる目撃する。ロンコと話す目的で店にやって来る青年ヤルモとの一部始終をミンミは観察している。そしてロンコもまた、ミンミとエマの運命的な出会いを観察している。スムージースタンドのミューズたち。ロンコはミンミとエマの物語から、こっそりと何かを学び取っているように見える。スムージーの販売を交代する二人は、主役=ミューズのその背景で本人以上に顔を紅潮させているのかもしれない。スムージースタンドの少女たちの高揚感が、スクリーンを見つめる観客にシェアされていく。そして場の空気を気まずくしてしまいがちなロンコに合わせる、ヤルモという青年がどこまでもやさしい。彼もまた自分の中に愛を見つけている。
『ガール・ピクチャー』© 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved
本作のサウンドトラックは、女性やクィアのアーティストの楽曲に絞られているという。そして『ブックスマート』(19)のプールのシーンで印象的に使われていたパフューム・ジーニアスの「Slip Away」がここでも聴けるように、本作は外部の声に惑わされず、自分の内側に喜びを見つけていくプロセスこそを「青春」と位置づけている。
少女たちの感じた喜びが、連続するスナップ写真のように収まっていく。青春の発見。少女たちは自分たちの発見した喜びに「モイ(こんにちは)!」と挨拶するだろう。スムージースタンドのミューズたちのはしゃぎ声は、この映画を見た観客によって補完される。歓喜の声に耳を澄ます映画。『ガール・ピクチャー』は、あなたが何者であろうとすべてを受け入れてくれる。
* Oscars Central [‘GIRL PICTURE’- INTERVIEW WITH THE DIRECTOR AND CAST]
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映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。
『ガール・ピクチャー』
絶賛公開中
配給:アンプラグド
© 2022 Citizen Jane Productions, all rights reserved