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『シェルタリング・スカイ』坂本龍一の名スコアと光の魔術師の美しき融合。現代では違和感のある表現も

(c)Photofest / Getty Images

『シェルタリング・スカイ』坂本龍一の名スコアと光の魔術師の美しき融合。現代では違和感のある表現も

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大自然の美しさと昂まる想いを最高級の映像&音で表現



 ストラーロには「色は物体の象徴」というモットーがあり、それを光=ライティングを駆使して表現するのが特徴。この『シェルタリング・スカイ』でも、赤に近いオレンジの光が象徴的に使われる。ホテルの部屋や、列車の客室など、明らかに現実には存在しないオレンジ色に登場人物たちが照らされ、その秘めた想いや激情が表現される。このオレンジの光の効用は『ラストタンゴ・イン・パリ』でも使われたが、サハラ砂漠も舞台になる『シェルタリング・スカイ』では、背景との一体感でより生々しく感じられるに違いない。


 そしてそのオレンジの光は人物の横方向から当てられ、顔の中央からオレンジと漆黒の闇にくっきりと分かれたりする。アップが多用される『シェルタリング・スカイ』では、光と影の明暗を技法にしたレンブラントの絵画のような瞬間を何度も感じられるのだ。



『シェルタリング・スカイ』(c)Photofest / Getty Images


 そんなストラーロの映像美と坂本龍一のスコアが究極のケミストリーを起こすシーンを挙げると、ひとつ目はオープニング。1940年代、ニューヨークの風景がモノクロで展開するクレジットが、北アフリカのカラー映像に切り替わり、港の護岸が映し出されるのだが、その護岸の縁に突然、人間の帽子が現れる。下船した主人公たちが歩いて上ってくる光景を極端なアップでとらえたわけだが、その異様な構図に坂本のメインテーマが流れ、これから展開される不穏な愛の物語を予告する。映画の「つかみ」として、映像と音楽の相乗効果が強烈なインパクトを与えるのだ。


 もうひとつは中盤、ポートとキットが自転車で向かった崖のシーン。見渡す大地に人の姿はまったく見えず、その絶景は本作の代名詞と言っていいほど、観た人の脳裏に焼きつく美しさ。広大な光景の美しさに魅せられた2人は、思わず崖の上で身体を重ねる。時間は夕刻であり、太陽のオレンジの輝きが2人を照らしつつ、崖の作り出す影がゆっくりと形と面積を変えていく。劇中で頻出するオレンジの中でも、ここだけ淡く温かい色合いなのは、ポートとキットにとって最も幸せな瞬間を表現しているからかもしれない。やがて昂ぶる想いに坂本龍一のスコアが重なり、映画的カタルシスとともに、やるせないまでの切なさが喚起されるのだった。





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