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『それでも私は生きていく』終わりと始まりの二重奏

『それでも私は生きていく』終わりと始まりの二重奏

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人生は待ってくれない



 『それでも私は生きていく』では、良い出来事と悪い出来事が表裏一体の二重奏のように展開される。最高の生の予感と最悪の死の予感。本作で引用されるドイツのサイレント映画『ニーナ・ペトロヴナ』(29)も同じく最高と最悪の出来事が描かれた傑作だ。主人公ニーナの可愛らしいウソで始まり悲劇的なウソで終わる『ニーナ・ペトロヴナ』には、許されない恋に戯れる恋人たちの無邪気さと二人の破局が容赦のない筆致で描かれている。主である少佐は寝ているニーナの体に向けて薔薇の花を一本ずつ投げ続ける。しかし彼女が既に毒薬自殺を図っていたことを少佐は知らない...。なんとも悲痛な映画だ。



『それでも私は生きていく』


 本作で『ニーナ・ペトロヴナ』が引用されるのは、このサイレント映画の無音、その霊的な要素にあるとミア・ハンセン=ラブは述べている。翻訳業を務めるサンドラが無音の映像から自分に向けて“翻訳”をするような美しいシーンだ。このシーンはサンドラが見るアザラシの悪夢と韻を踏んでいる。『ニーナ・ペトロヴナ』のような悲劇への恐怖が彼女を苦しめる。サンドラは人生が待ってくれないことへの恐怖に怯えているのかもしれない。本作の「ある晴れた日の朝に」という原題のタイトルが、終わりと始まりのどちらとも受け取れるタイトルであることにふと気づかされる。


 この夏から次の夏へ。ある朝から次の朝へ。『それでも私は生きていく』は、迷いながら生きるサンドラのポートレートだ。それでも死はやってくるし、それでも私は生きていく。人生は待ってくれない。本作は“人生なんて恐くない!”という虚勢さえ言えなくなった者に次の朝を差し出す。バスの車窓から見える街の景色に笑うのも悲しくなるのも、すべてが人生なのだと受け入れる勇気を持てるならば、その光は間違っていないのだ。


*1 VanityFair [Mia Hansen-Løve’s Company of Women]

*2 Guardian [Mia Hansen-Løve:‘I’d rather not film sex scenes than have virtue police on set' ]



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。




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『それでも私は生きていく』

絶賛公開中

配給:アンプラグド

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