『アルマゲドン・タイム　ある日々の肖像』1980年秋の木漏れ日

失敗と共に歩む勇気

「この映画には道徳的な後悔と1980年と2022年の間に起こる類似性が描かれています。知性、ユーモア、温かさ、悲しみ、暴力、そのすべてが私に語りかけてきました。これは本当に稀有なことだと思ったのです」（アン・ハサウェイ）*1

　ロナルド・レーガンが大統領選に立候補する年に、ポールはドナルド・トランプの父フレッドの支配下にある私立学校に強制的に転校させられる。ポールの両親はいつも正しい人間というわけではない。怒りの沸点が低いアーヴィングは、ベルトで息子を殴ることもある。ポールにとって父親は恐怖の対象だ。母親もポールの恐怖をよく知った上で父親を利用しようとする。アーヴィングはポールに自分と同じ人生を歩んでほしくない。この世界をタフに生きることを息子に望んでいる。ジェームズ・グレイは両親の間違った行動を敢えて描くことで、一人の人間の中にある矛盾を浮かび上がらせようとしている。誰もが失敗と共に人生を歩んでいる。クローズアップになったポールの顔や後ろ姿が、ときおり母親とものすごく似ていることにハッとさせられる。

『アルマゲドン・タイム　ある日々の肖像』© 2022 Focus Features, LLC.

　ポールはジョニーの貧しい生活を知ろうとしない。ジョニーの貧しい生活を想像することができない。『アルマゲドン・タイム』は子供時代の取り返しのつかない失敗に関する映画だ。しかし12歳の子供の行動力にいったい何が期待できただろう？ジェームズ・グレイは言い訳をするわけでも自己憐憫に陥るわけでもなく、子供時代の限界を映画に示している。

　不公平なことに声をあげる勇気を。完璧であろうとするな、ベストを尽くせ。核戦争の恐怖が世界を支配する中、ポールは街へ飛び出す。ポールは様々な局面で思い出すだろう。“高潔に生きよ”と発したときの大好きな祖父の声の響きを。秋の空に消えた声の響き。1980年の木漏れ日は、未来の観客に希望を託している。

*1 Hollywood Reporter [How ‘Armageddon Time’ Star Anne Hathaway Prepared to Play Director James Gray’s Mother in Semi-Autobiographical Film ]

*2 [Armageddon Time-DP] Press Release

文：宮代大嗣（maplecat-eve）

映画批評。「レオス・カラックス　映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。

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『アルマゲドン・タイム　ある日々の肖像』

大ヒット上映中

配給：パルコ　ユニバーサル映画

© 2022 Focus Features, LLC.