© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020
『ファーザー』アンソニー・ホプキンスを2度目のオスカーに導いた、英仏の非凡な劇作家たち
『ファーザー』あらすじ
認知症になった80代のアンソニー。娘のアンは彼の家に日々通って面倒を見ている。アンは新しい恋人とパリで暮らしたい、と父に告げるが、本当は父のことが気がかりで仕方がない。その後、アンソニーが別の部屋に行くと、そこには見知らぬ男がいる。彼はアンの夫だという。やがて、アンが戻ってくるが、それはアンソニーが知っているアンではなく、別の女性に思える。どうしてこんなことが……?最近、様子が変だったアンソニーはますます混乱していく。
Index
- “人生のミステリー”を演じて2度目のオスカー受賞
- 平たんではなかった映画化への道のり
- 英国演劇界の大ベテラン、ハンプトンが発見した新しい才能
- 映画と演劇のルールの違い
- 主人公の“旅(ジャーニー)”を彩る音楽
“人生のミステリー”を演じて2度目のオスカー受賞
アンソニー・ホプキンスが『羊たちの沈黙』(91)以来、2度目のアカデミー主演男優賞を手にした。受賞作は舞台劇の映画化『ファーザー』。83歳での受賞は主演男優賞の部門では最高齢。『羊たちの沈黙』でオスカー像を手にした時、すでに50代に入っていたが、約30年後、再び最高の賞を手にした。
もっとも、本人は受賞できるとは考えていなかったようで、ウェールズの自宅で過ごしていた。この部門の本命は40代で他界したチャドウィック・ボーズマン(『マ・レイニーのブラックボトム』(20))と考えられていたので、ホプキンスの受賞はちょっとしたサプライズとなったが、『ファーザー』を見てしまうと、彼の受賞も納得。いかにもごり押しの熱演ではなく、どこかお茶目でユーモラスな場面も出てくるが、最後はその圧倒的な感情表現に心を揺さぶられる(これまで見たこともない彼の表情を見ることになる)。
『ファーザー』予告
演じているのは認知症となった80代の男性、アンソニー。娘のアン(本作でオスカーの助演女優賞候補となったオリヴィア・コールマン)が彼の家に日々通って面倒を見ている。気難しいところもある父は介護人とソリが合わないこともあり、今度は大事な腕時計を介護人に盗まれた、と騒いでいる。アンは新しい恋人とパリで暮らしたい、と父に告げるが、本当は父のことが気がかりで仕方がない。
その後、アンソニーが別の部屋に行くと、そこには見知らぬ男がいる。彼はアンの夫だという。やがて、アンが戻ってくるが、それはアンソニーが知っているアンではなく、別の女性に思える。どうしてこんなことが……? 最近、様子が変だったアンソニーはますます混乱していく。
老人介護を描くと、たいていは介護する側の視点でドラマが進むが、この映画は介護される側の視点で綴られる。認知症の人物のメンタリティを映像化することで、ジグソーパズルのような知的なミステリーとしても楽しめる構成になっている。映画としてはこの点が新鮮だ。
『ファーザー』© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020
アメリカのテレビショー、“The Late Show with Stephen Colbert”(21年4月20日)にホプキンスと共にリモートで出演した新人監督のフロリアン・ゼレールは、この作品についてこんな発言をしている。
「この映画は見る人を迷路に誘い込み、主人公アンソニーの頭の中で起きることが描かれていく。まるでパズルのような感覚があり、どこが現実で、どこが現実ではないのか、見ていて分からなくなる」
ホプキンス自身は今回の役を、心臓病で亡くなった父をモデルにして役を作り上げたという――「だから、描かれている感情はすごく生々しいと思う。まるで人生のミステリーを旅するような映画だと思う。そこに足を踏み入れると、人生の紛れもない真実が見えてくる」