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『ファーザー』アンソニー・ホプキンスを2度目のオスカーに導いた、英仏の非凡な劇作家たち

© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020

『ファーザー』アンソニー・ホプキンスを2度目のオスカーに導いた、英仏の非凡な劇作家たち

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英国演劇界の大ベテラン、ハンプトンが発見した新しい才能



 それまで英国では知られていなかったゼレールの作品を演劇界に紹介したのもハンプトンだった。語学が堪能で、モリエール作品などフランス語の翻訳の仕事も手がけてきた彼がゼレールの戯曲“Le Père”を発見したのは、2014年のこと。パリに滞在中にこの舞台の評判を聞きつけ、さっそく公演を見て心を動かされた。


 終演後はゼレールに会って、自分が英訳して英国で紹介したい、と伝えたという。その後、彼の作品5本を英国でも紹介。パリでの出会いが、今回の映画化の最初の発火点となった。映画用に脚色する時は、ゼレールがフランス語で書き、次にハンプトンが英語にしていく。この作業を繰り返した後、最終的にはふたりで会って、最終稿の英語の脚本を書き上げていったという。


 ハンプトンは演劇界だけではなく、映画界でもすでに実績があった。『危険な関係』(88、スティーヴン・フリアーズ監督)の脚色でもアカデミー脚色賞を手にしている。『危険な関係』はフランスの文学者、ラクロの小説をハンプトンが戯曲化したもので、英国ではアラン・リックマン主演の舞台が評判を呼び、フリアーズの映画版が実現(こちらはジョン・マルコヴィッチ、グレン・クローズ主演)。ハンプトンが自分の戯曲の脚色も手がけた。


文学的な作品の映画化に強いハンプトンは、英国の人気作家、イアン・マキューアン原作の『つぐない』(07)の脚色でもオスカー候補となっている。



『ファーザー』クリストファー・ハンプトンとアンソニー・ホプキンス © NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF  CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION  TRADEMARK FATHER LIMITED  F COMME FILM  CINÉ-@  ORANGE STUDIO 2020


 そんなハンプトンに90年代半ばにロンドンで会って映画作りの話をしたことがある。彼自身の監督デビュー作『キャリントン』(95、ジョナサン・プライス、エマ・トンプソン主演)の公開前に自宅兼仕事場で筆者との取材に応じてくれた。ハマースミス地区のテムズ川沿いの一軒家だったが、なんと、そこは19世紀の英国のデザイナー、詩人であるウィリアム・モリスが晩年を過ごした歴史的な建物。中にはモリスの壁紙や彼のテキスタイルが飾られ、クラシックで落ち着いた趣がある。壁にはモリスと親交の深かった画家エドワード・バーン=ジョーンズが描いた風刺的な絵も散見された。

 当時のハンプトンは大きな黒猫と暮らしていて、居間に行くとその猫に妙になつかれた(ふだんは人見知りする猫らしいが……)。ハンプトン本人は物腰の柔らかな人で、話し方に知性がにじんでいた。肩にかかる髪が印象的で、どこか繊細な雰囲気もあった。

 彼が40代で監督デビューを果たした『キャリントン』では、実在したゲイの作家リットン・ストレイチーと、彼と同居していた画家ドーラ・キャリントンの不思議な愛の世界が描かれ、ストレイチー役のプライスはこの映画でカンヌ映画祭の主演男優賞を獲得している。


『キャリントン』予告

 ハンプトンが演劇の世界に足を踏み入れたのは、オックスフォード大学在籍中の1960年代のこと。自身の体験を基にしたゲイの青春ドラマ“When Did You Last See My Mother”(64)で18歳の時に認められ、ウエストエンドで戯曲が上演された最年少の劇作家となった。

 そして、68年に発表した戯曲が『太陽と月に背いて』。こちらは95年にレオナルド・ディカプリオとデイヴィッド・シューリス主演で映画化された(脚色もハンプトンが担当)。ディカプリオがフランスの天才詩人ランボー、シューリスが同じく詩人のベルレーヌに扮して濃密な愛と芸術をめぐる葛藤を体現する。最初はリヴァー・フェニックスとジョン・マルコヴィッチ主演で映画化予定だったが、「リヴァーが亡くなって、結局、最初から仕切り直しになった。でも、ディカプリオも本当にすばらしい男優だと思う」。やっと実現した映画版の主演男優、ディカプリオをハンプトンは絶賛していた。


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