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『ルナ・パパ』月の上で踊るヒロイン、マムラカット

『ルナ・パパ』月の上で踊るヒロイン、マムラカット

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『ルナ・パパ』あらすじ

マムラカットは女優を夢見る17歳の少女。ある月の晩、暗闇から声をかけてきた男の子どもを宿してしまうが、男は忽然と姿を消す。古いしきたりの村で周囲から冷たい仕打ちを受けるなか、マムラカットは父と兄とともに男を探す旅に出る。


Index


突進するヒロイン



 月面のような山肌が空撮で捉えられる。砂煙をあげながら疾走する馬の群れ。猛スピードで斜面を駆け下り、駆け上がっていく馬、馬、馬。セスナ機は危険な低空飛行を繰り返す。マムラカット(チュルパン・ハマートヴァ)の兄ナスレディンは戦闘機の羽のように腕を広げ、村中を駆け回っている。ナスレディンはアフガン戦争の後遺症を負っている。マムラカットは村人からバカにされる兄のことを、いつも庇っている。家族思いの少女マムラカット。


 『ルナ・パパ』(99)という映画のすべては、兄と妹が乗り物を運転するパントマイムを始めた瞬間に決まるといえる。兄と妹はタジキスタンを飛行する“マシン”に変身する。片方の羽に悲劇を。もう片方の羽に喜劇を。マムラカットは大きく両翼を広げ、物語の渦に体ごと飛び込んでいく。御伽噺のお姫様のように美しい衣装を纏い、砂埃をあげながら疾走するヒロイン。マムラカットという発光体のヒロインの誕生だ。彼女はボンネットの上でくるくる踊る。彼女は分娩台に足ではなく、腕を広げる。翼を広げるように。このヒロイン像は永遠に新しい。そして信じられないくらいキュートだ。




 村人たちの心ない視線にマムラカットの家族は包囲されている。もはやこの土地にマムラカットの希望はないように見える。しかしどう考えても悲劇的な状況であるにも関わらず、『ルナ・パパ』という作品は底抜けな明るさに満ちている。画面の隅々まで光が溢れている。マムラカットという発光体が、陽気な光で映画を、そして観客を照らし続けてくれる。何かに体ごとぶつかって跳ね飛ばされ追い込まれる度に、マムラカットの光の強さは増していく。エネルギーの塊のようなマムラカット。チュルパン・ハマートヴァの演技には、このときの彼女にしか演じることができない絶対性がある。





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