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『ルナ・パパ』月の上で踊るヒロイン、マムラカット

『ルナ・パパ』月の上で踊るヒロイン、マムラカット

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月の上で踊る



 フドイナザーロフの映画はエミール・クストリッツァの映画と比較されることが多いが、祝祭空間という点では、本人も影響を認めるフェデリコ・フェリーニの映画に近い。加えて予測不能なドタバタ喜劇性、列車やサイドカー付のバイクといった乗り物へのこだわり、動物の登場という点においてウェス・アンダーソンの映画と共振している。そして『ルナ・パパ』の大掛かりなセット撮影には『ライフ・アクアティック』(04)に通じる野心がある。


 マムラカットとは“国家”を意味する言葉だという。『少年、機関車に乗る』の少年たちが父親を訪ね、家を探していたように、マムラカットもお腹の中の子供の父親と自分が安心できる空間を探している。“国家”を“故郷”という言葉に置き換えるならば、フドイナザーロフの映画は故郷喪失者を描いているということも可能だろう。『ルナ・パパ』が国境に接した未開拓の地域を舞台にしていることは示唆的だ。未開拓の地であるがゆえに、異なる文化の背景がある人々が集まり、新しい文化を作ろうとする。そこには野蛮な行為も含んだ“実験”がある。




 49歳の若さで早逝するフドイナザーロフは、かつて映画を作る上で重要なこととして「海を見つけること」を語っていた。海という起源。海を懐かしみ、月を懐かしみ、在りし日の地球を懐かしむ。マムラカットは此処ではない何処かで、失ったものを取り戻せる世界を探している。この土地を照らす月の光がやさしくないのなら、もう一つの月を自分たちで作ってしまおう。本作のファーストカットが月の表面をなぞるような俯瞰ショットだったのは象徴的だ。


 疾風のように駆け抜けるマムラカットの生へのエネルギーは、国境どころか地球を越えていく。月という故郷を発見したマムラカット。誰のものでもないマムラカット。ここから再びダンスを始める。マムラカットは自分だけのダンスを月の上で踊り続けるだろう。地球で踊っていたときの笑顔を走馬灯のように懐かしみながら。



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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