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『オープニング・ナイト』“老い”という実存的恐怖からの解放

(c)1977 Faces Distribution Corporation

『オープニング・ナイト』“老い”という実存的恐怖からの解放

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“希望”を伝える



 マートルが主演を務める舞台「2番目の女」は、ある中年女性の悲劇を描いている。初日を前にして稽古に励むが、どうもうまくいかない。彼女は、自分の役を理解しきれないのだ。65歳の劇作家サラは、マートルにこんな言葉を突きつける。


 「あなたが演じている女性は、あなたや私のように無力なの。武器もないわ。彼女は恋をしたがっている。でも、もう遅いの。それだけのことよ」


 だが、マートルは中年女性の“無力さ”に抵抗する。何度も年齢を聞かれてもそれには答えず、「年齢なんて無意味だ」と熱弁する。そして、サラに「この芝居に足りないものは何か、言ってみて」と尋ねられると、こう回答するのだ…「希望」と。



『オープニング・ナイト』(c)1977 Faces Distribution Corporation


 カサヴェテスは言う、「彼女は自分自身の状況と人生を探求し、自分が演じているキャラクターに大いなる真実を見出している。だが、それでも彼女は、観客に何か希望を伝えなければならないという感覚を抱いている。なぜなら、聴衆は何かを提供されない限り、何も聞こうとしないからだ。そして、何も提供されなければ、彼らは皆去ってしまうだろう。そのため彼女はこの芝居が悪い劇だと感じて、それを変えることができるなら何でも素晴らしいと思っているんだ」(*3)


 カサヴェテスが語る“希望”とは、観客に提供されるだけではなく、マートル自身を救済する言葉でもあっただろう。だからこそ紙の上に書かれたセリフをただ暗唱するのではなく、自分自身で編み出した言葉でセリフを語るのだ。サラの意に反して。


 非常に興味深いのは、実生活で夫婦のジーナ・ローランズとジョン・カサヴェテスが、舞台の上でも夫婦を演じていることだ。「愛している」という言葉は何度も繰り返されるが、明らかに二人の間には精神的亀裂が入り、夫婦関係にクライシスが迫っている。だが二人はアドリブ芝居を応酬し、メランコリックではなくチアフルに芝居を前進させていく。ティーンエイジャーのようなロマンティック・ラブに固執するのではなく、今の自分を受け入れることで、中年の危機を軽やかに飛び越えていくのだ。


 自らの手でナンシーの亡霊を葬り去ることで、“老い”という実存的恐怖から解放されたマートル。万雷の拍手を送って彼女を祝福する観客、スタッフたち。『オープニング・ナイト』は、ある種のホラーであり、中年の危機の物語であり、夫婦の映画であり、そしてやはり“俳優の映画”なのである。



(*1)https://cinephiliabeyond.org/john-cassavetes-the-man-and-his-work/

(*2)https://cinephiliabeyond.org/killing-of-a-chinese-bookie/

(*3)https://www.youtube.com/watch?v=1kr_lkOl9So



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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作品情報を見る



『オープニング・ナイト』

「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」

6月24日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開

配給:ザジフィルムズ

(c)1977 Faces Distribution Corporation

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