『イメージズ』あらすじ
ロンドンに住む児童文学作家のキャスリンはある日、夫ヒューが浮気をしているという謎の電話をきっかけに、昔の恋人の幻影を見始める。心配する夫と共に田舎で静養することになるが、症状はおさまるどころかさらにエスカレートしていく。
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不連続なイメージ
「『イメージズ』は完璧に思えた。私は言った。”まさしくこれだ!世界中の誰もがこの映画を見るだろう”。しかし誰も見なかった」(ロバート・アルトマン)*1
この悪夢には終わりがない。そして始まりもない。映画が始まってものの数分以内に、観客はキャスリン(スザンナ・ヨーク)の異変に気付く。窓に滴る雨が悪夢の世界への入口を誘っている。窓、鏡、カメラレンズ。この部屋にはキャスリンを監視する“瞳”が至る所に溢れている。降りやまない雨。鳴りやまない電話。キャスリンは夫が浮気をしているという謎の電話を受ける。キャスリンは視覚と聴覚に呪縛されていく。サブリミナル的に捉えられていく部屋の美術や小道具、そして音声が、キャスリンだけでなく観客を“囚われの身”にさせる。ロバート・アルトマン監督は派手なギミックに頼ることなく、こわれゆくヒロインの挙動を捉え続ける。
『イメージズ』© 2023 Phoenix Films Holdings Limited
スザンナ・ヨークは不連続なイメージに囚われるヒロインという難しい役を、不連続な演技によって見事にこなしている。「ユニコーンを探して」という童話の創作を、電話によって中断されるキャスリン。『イメージズ』(72)において“中断”というテーマは、映画だけでなく演技のプランをも支配している。官能に身を任せるようなキスに浸る次の瞬間、相手に殺気を向ける“中断”の演技。スザンナ・ヨークのアップには、キャスリンの切断された感情の断面が示されている。キャスリンは自分の分身を見る。そして自分の分身に見られている。禍々しい“瞳”の物語。本作にエドガー・アラン・ポーの「告げ口心臓」との類似を見るのは、とても理解ができる。身体の内側から肌を突き破ってくるような衝動とイメージ。キャスリンはイメージと戯れ、傷つけられていく。
アクション・ペインティングのごとく予測不能に様相を変えていく『イメージズ』は、まるで生き物のような映画だ。目の前の風景が次々と変異を遂げ、観客の瞳に飛びかかってくる。観客はキャスリンの主観を体験する。しかし不思議と難解な印象は受けない。ヴィルモス・ジグモンドの手掛けた撮影やレオン・エリクセンによるプロダクションデザインは、題材に対して努めて冷静な距離を保っている。キャスリンを演じたスザンナ・ヨークは、プレミア上映の行われたカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞した。しかしロバート・アルトマンの自信をよそに、本作の劇場公開は短命に終わっている。