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『イメージズ』永遠にひび割れた映画

© 2023 Phoenix Films Holdings Limited

『イメージズ』永遠にひび割れた映画

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リアルタイムの創作



「アルトマンにとってズームは独自の価値を持っていたのです」「カメラを動かすことを恐れてはいけないということを学びました」(ヴィルモス・ジグモンド)*2


 アイルランドのダブリンで撮った『イメージズ』では、曇天模様の空とシャープな光が特徴的だ。本作の前作にあたる『ギャンブラー』(71)に続き、ヴィルモス・ジグモンドとロバート・アルトマンのコンビの撮影では、数多くの色彩を捉えることよりも、光と影のやわらかいグラデーションで“色彩を作る”ことが重視されている。キャスリンの幻視する世界に終わりと始まりの境界がないように、色彩と色彩の間は限りなくシームレスな輪郭によって構成されている。多色よりも“脱色”を好むというヴィルモス・ジグモンドらしい見事な撮影だ。アイルランドの光が与えた影響は計り知れない。本作は土地の霊性に関する映画でもある。



『イメージズ』© 2023 Phoenix Films Holdings Limited


 アイルランドの田園風景。崖の上に立つキャスリン。彼女は家に入っていく自分の姿を“ズーム”で見る。さらに家にいるキャスリンは、崖の上にいる自分を“ズーム”で見つめ返す。本作がカメラアイに関する映画だということを、強く意識させる瞬間だ。


 またジョン・ウィリアムズとツトム・ヤマシタが手掛けた「音の彫刻」とも評される過激な劇伴と同じくらいに、キャスリンが童話「ユニコーンを探して」を朗読する声が、本作では重要な“メロディ”になっている(「ユニコーンを探して」はスザンナ・ヨークの著書)。キャスリンのやわらかい声が、この土地に御伽噺のようなファンタジーを召喚している。本作の悪夢は彼女自身の声によって召喚されたともいえるだろう。キャスリンは童話のイメージを追いかけ、捕まえたイメージに傷つけられる。『イメージズ』という作品自体が、まさに創作に関するプロセスそのものだ。




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