© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved
『ロング・グッドバイ』世界を傍観する者から、世界に介入する者へ ※注!ネタバレ含みます。
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『ロング・グッドバイ』あらすじ
私立探偵フィリップ・マーロウは、夫婦喧嘩をした友人テリー・レノックスの頼まれ、彼をメキシコまで車で送る。ところがテリーの妻、シルヴィアの遺体が発見され、容疑をかけられたテリーは自殺してしまう。その後、マーロウはある女性から、失踪した作家の夫の捜索を依頼されるのだが……。
Index
古典中の古典
「『長いお別れ』はレイモンド・チャンドラーの代表的傑作である。チャンドラー作品を輝かせている魅力がすみずみにまでゆきわたっているし、その上、彼の作品のなかではいちばんの長編で、読みごたえも充分だ。僕はチャンドラーの作品をほとんど全部読んでいるので、このことは確信をもっていえる」(*1)
早川書房版『長いお別れ』で日本語訳を務めた清水俊二は、あとがきでそのように述べている。確かにその通りだろう。1985年に文藝春秋より刊行された「東西ミステリーベスト100」の海外編では、エラリー・クイーンの『Yの悲劇』、ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』に次いで第3位。2012年度版でも、堂々の第6位にランクイン。まさに古典中の古典である。
舞台は、50年代のロサンゼルス。私立探偵フィリップ・マーロウは、友人のテリー・レノックスから突然「ティフアナまで連れて行って欲しい」と懇願され、メキシコまで送り届ける。だがその数日後、レノックスが自殺したという報が届く。しかも、レノックスは妻を殺害していた。殺人の共犯を疑われていたマーロウは釈放されるが、どこか釈然としない。やがてマーロウは、失踪した人気作家ロジャー・ウェイドの捜索をウェイドの妻アイリーンから依頼される。レノックス、ウェイド、アイリーン…別々だと思われていた糸は次第に一つの真相へと収斂していく。
『ロング・グッドバイ』© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved
私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするシリーズ6作目に当たる本作は、ハードボイルド小説の金字塔として今現在でも燦然と輝いている。だが、この映画化の話がロバート・アルトマンに回ってきたとき、彼は全く乗り気ではなかった。『さらば愛しき女よ』をディック・パウエル主演で映画化した『ブロンドの殺人者』(44)、『大いなる眠り』をハンフリー・ボガート主演で映画化した『三つ数えろ』(46)など、すでに“フィリップ・マーロウもの”は作られまくっていて、同じような作品を監督することはまっぴら御免だったのである。
「最初はレイモンド・チャンドラーはやりたくないと言ったよ。フィリップ・マーロウの名を口にした途端、みんなハンフリー・ボガードを思い浮かべるんだからとね。あの企画にはロバート・ミッチャムの主演が望まれていた。私としてはとにかくフィリップ・マーロウの映画をまたもう一本やって、結局他の映画と変わりばえしないものを作ってしまうなんていやだったんだ」(*2)
だが、リー・ブラケットが手がけたシナリオを読んで、アルトマンは仰天する。これまでの“フィリップ・マーロウもの”の定型をブチ壊す、極めて挑戦的なストーリー。生粋のアウトサイダーであるアルトマンは俄然やる気を出し、この古典の映像化に取り組むことになる。