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『ロング・グッドバイ』世界を傍観する者から、世界に介入する者へ ※注!ネタバレ含みます。

© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved

『ロング・グッドバイ』世界を傍観する者から、世界に介入する者へ ※注!ネタバレ含みます。

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OK with me(まあ、いいさ)



 フィリップ・マーロウは、世界を傍観する。残酷な現実を目の当たりにしても、粛々とそれを受け入れ、諦観しきった表情で舞台から去っていく。それこそが非感傷的なレイモンド・チャンドラーのスタイルであり、ハードボイルド小説の流儀。本作の翻訳も手がけている村上春樹は、こう著している。


「我々はフィリップ・マーロウを主人公とするいくつかの物語を読み、様々な事象についてのフィリップ・マーロウの所見のありようを知ることになる。(中略)我々がそこで理解するのは、あくまでフィリップ・マーロウという「視点」による世界の切り取られ方であり、そのメカニズムの的確な動き方でしかない。それはきわめて具象的であり触知可能なものではあるが、我々をどこにも運んでいかない。彼が本当にどういう人間なのか、我々はほとんど知りようがない。マーロウは実際には、たぶん我々から何光年も遠く離れたところにいるようにも見える」(*4)



『ロング・グッドバイ』© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved


 村上春樹は慧眼鋭く、フィリップ・マーロウが世界を傍観する者であることを喝破する。この『ロング・グッドバイ』でも、マーロウはほぼ全てのシーンに登場し、我々観客を導く道先案内人の役割を全うするが、決してこの世界に介入しようとはしない。印象的なのは、何度も呟く「OK with me(まあ、いいさ)」というセリフ。彼は自分に言い聞かせるように、この世の不条理を受け入れていく。


 興味深いのは、そのマーロウの動きに合わせて、カメラもドリーやパンを繰り返して、常に動き続けていること。我々もこのストレンジ・ワールドを覗き見しているかのような、摩訶不思議な感覚。それでいて、“具象的であり触知可能なものではあるが、我々をどこにも運んでいかない”ストーリーが、淡々と、色褪せた色調で、紡がれていく。




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