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『ロング・グッドバイ』世界を傍観する者から、世界に介入する者へ ※注!ネタバレ含みます。

© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved

『ロング・グッドバイ』世界を傍観する者から、世界に介入する者へ ※注!ネタバレ含みます。

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「ハリウッド万歳」



 だが最後の最後になって、アルトマン版『ロング・グッドバイ』は驚愕の展開を迎える。原作では、整形して顔を変えたレノックスが最後に登場し、マーロウは自分が利用されていたことに気付く。そして衝撃的な事実をゆっくりと咀嚼して、静かにその場を立ち去る。だが映画では、真実を知ったマーロウがレノックスの土手っ腹に銃を一発ぶっ放すという、過激な改変がなされているのだ。これもまた、熱心なチャンドラー・ファンから反発を買ったことは、言うまでもない。


 だがこれこそが、アルトマンが描きたかった物語だったのだ。これこそが、20年の眠りからマーロウを召喚させて、やらせたかったことなのだ。最初にシナリオを読んだアルトマンは、監督を引き受ける代わりに「絶対にエンディングを変更しない」という一文を契約に入れるように要求したという。それだけ彼は、リー・ブラケットのシナリオに撃ち抜かれていた。ブラケット自身は、こう語る。


「マーロウが殺人を犯すという結末は、アルトマンが参加する前から決まっていました。(中略)『大いなる眠り』が作られた時代には検閲があったために、やろうと思ってもできなかったのです。(中略)私たちの行動が正しかったかどうかは分かりませんが、やったことに後悔はしていません。あの時は“正しい”と感じ、結果的にこうなったのです」(*5)



『ロング・グッドバイ』© 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved


 世界を傍観する者から、世界に介入する者へ。半覚半睡だったマーロウは自らの意思で、不条理な物語に決着をつけるのだ。


 親友のレノックスを撃ったあと、流れる音楽はベニー・グッドマン楽団による「ハリウッド万歳」。筆者はこのラストシーンを観るたびに、不思議な高揚感を覚える。まるで、傍観者からの決別を高らかに宣言したナンバーのように思えるからだ。きっとそんな胸の高鳴りを感じながら、ロバート・アルトマンもカメラを回したのではないか。なぜか、そんな気がして仕方がない。


(*1)『長いお別れ』早川書房

(*2)、(*3)『ロバート・アルトマン わが映画、わが人生』キネマ旬報社

(*4)『ロング・グッドバイ』早川書房

(*5)https://cinephiliabeyond.org/long-goodbye-robert-altman-leigh-bracketts-unique-fascinating-take-chandler-film-noir/



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。




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作品情報を見る



『ロング・グッドバイ』

「ロバート・アルトマン傑作選」

5月26日(金)より角川シネマ有楽町ほか、全国順次ロードショー

配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム

©️ 1973 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved

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