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『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』フィルム・ノワールを纏った、疑似家族の物語 ※注!ネタバレ含みます。

(c)1976 Faces Distribution Corporation.

『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』フィルム・ノワールを纏った、疑似家族の物語 ※注!ネタバレ含みます。

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夢の終わり



 ジョン・カサヴェテスはラストシーンで、ミスター伊達男にこんな歌を歌わせている。


「夢を見て手をのばせ

 考えればきっと見つかる

 幸せを追い求めよう

 望みをすべてかなえたいね

 早く見たいものだ

 君の晴れ姿を ベイビー

 (中略)

 私から君にあげられるのは

 そう ほかの何物でもない

 この熱い愛だけ たぎる情熱だけ」


 何て純粋なのだろう。何て無垢なのだろう。夢、幸せ、愛。まるで子供のような屈託のなさで、ドリームズ・カム・トゥルーな熱い想いを、ミスター伊達男はノリノリで歌い上げる。すると急に女性が背後から現れ、彼の肩越しにボッと炎を燃え上がらせると、「まあお熱いこと!」と茶々を入れる。ミスター伊達男の表情は、道化者とは思えないくらいにみるみるうちに沈んでいき、鬱屈とした面持ちで舞台から去っていく。夢を歌う舞台の上で夢が潰えた瞬間を、カサヴェテスは冷徹に切り取る。


 そしてコズモもまた、夢の終わりに佇んでいる。自分が愛する家=クレイジー・ホースを守るために、チャイニーズ・ブッキーを殺し、ギャングを殺した彼の体内には、撃ち込まれた銃弾が残っている。夜の路上でタバコを咥えながら、血に染まった腹部に手をやるコズモ。彼はすでに死に体で、残された時間はわずかだろう。えも言われぬ寂寥感、そして哀愁。それは、夢と現実のはざまで必死にもがきながら、必死に映画界で戦ってきたカサヴェテス自身を、自己言及的に映し出したものだ。



『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』(c)1976 Faces Distribution Corporation.


 「2、3人のアメリカ人批評家以外、誰もこの映画を気に入ってくれなかったよ。ある意味、私の映画の中で最も思い入れのある作品なんだ。誰も愛してくれない子供がいれば、親はその子供をより一層愛するようになるものさ」(*3)


 カサヴェテスなりの芸術論、いや、人生論を語ったこの映画に対して、彼ははっきりとその愛情を語っている。かつてフェデリコ・フェリーニは、『8 1/2』(63)で芸術家の苦悩を夢や幻想を織り交ぜて狂騒的に描いたが、カサヴェテスの場合はもっと直裁で明快。自分の内面に分け入っていくのではなく、周りにいる友人たち、そして映画そのものへの愛を叫んでいる。その真っ直ぐな想いに、筆者は思わず感涙してしまうのだ。


 やっぱり『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』は、奇妙すぎるフィルム・ノワールである。



(*1)、(*3)https://cinephiliabeyond.org/killing-of-a-chinese-bookie/

(*2)https://www.imdb.com/title/tt0074749/trivia/?ref_=tt_trv_trv



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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作品情報を見る



『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』

「ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ」

6月24日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次公開

配給:ザジフィルムズ

(c)1976 Faces Distribution Corporation.

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