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『さらば、わが愛/覇王別姫』中国近代史と悲恋、チェン・カイコーが描いたこと/描かなかったこと

©1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.

『さらば、わが愛/覇王別姫』中国近代史と悲恋、チェン・カイコーが描いたこと/描かなかったこと

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エモーショナルな人間ドラマ、映像美の裏側



 この映画は、蝶衣と小樓、そして菊仙の3人が歴史の流れに翻弄されていく悲劇である。そこでは彼らのパーソナルな物語と近代史が、そして蝶衣と小樓が演じる京劇『覇王別姫』や『貴妃酔酒』などのストーリーが三層に重なっている。ときに彼らの置かれる状況は、台詞や物語よりも、劇中に登場する京劇のほうが雄弁に物語るのだ。


 撮影の顧長衛(クー・チャンウェイ)は、広大なロケ地やセットを、作り込まれた美術を、俳優の表情や彼らが着こなす衣裳を、揺らめく炎を、降り注ぐ雨を、そして京劇の優雅な舞いと立ち回りを、鮮やかに切り取る。製作から30年を経ての4K上映で特に注目しておきたいのは、チェン・カイコーが画面に込めた各時代の“匂い”を蘇らせる映像美だ。


 スクリーンには、しばしば物語の力を凌駕するほどの“画の力”が立ちのぼる。蝶衣役を演じきったレスリー・チャンの美貌、儚い表情もそのひとつ。あくまでもカイコーは、作品を構築する言葉や情報の積み重ねより、映画/映像というメディアが本質的にはらむエモーションを信頼しているかのよう。近代史より人間関係を前面に出すアプローチも、おそらくその思想が反映されたものだろう。



『さらば、わが愛/覇王別姫 4K』©1993 Tomson(Hong Kong)Films Co.,Ltd.


 1993年の製作当時、カイコーは来日時の記者会見で「原作を読み、50年間にわたる主人公2人の関係に惹かれた。2人の感情的関係を通じて、中国の近代50年を深く描ける。中国の文化・人・社会の映画だ」と語った。やはり大切なのは“感情的関係”なのだ。


 しかしその裏側には、カイコー自身が文化大革命のさなかに少年~青年期を送り、圧力にのまれ、映画監督だった自らの父を反革命分子として糾弾した過去があることを忘れてはならない。のちにカイコーは、当時の判断を深く悔やんでいること、家族の人生や自らの作品に大きな影響を及ぼしたことを認めている。


 この映画が製作された1993年当時、文化大革命の終結からはまだ15年ほどしか経過していなかった。さらに30年が過ぎた現在の感覚からすると説明不足な点も見受けられるが、当時では説明不要、誰もが知る事実が作品の背後に横たわっていたのだ。映画の後半になるほど情緒的になっていくストーリーテリングには、おそらく当時の時代精神、そしてカイコー自身の心理が反映されているのではないか。





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