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『汚名』トリュフォーが最も愛するヒッチコック作品である理由とは?

(c)Photofest / Getty Images

『汚名』トリュフォーが最も愛するヒッチコック作品である理由とは?

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「愛と義務の葛藤」という古典的なテーマ



 あるパーティで出会ったアリシア(イングリッド・バーグマン)とFBI捜査官デヴリン(ケーリー・グラント)。二人は深く愛するようになるが、ナチ残党の大物セバスチャン(クロード・レインズ)から情報を引き出すため、アリシアはスパイとして彼に近付く。やがてセバスチャンから求婚されてしまった彼女は、スパイとしての使命とデヴリンへの愛で揺れ動く。そして苦悩の果てに、妻となってスパイ活動に身を捧げることを決意する…。


 切ない。切なすぎる。ヒッチコックの言葉を借りれば、本作は「自己の任務を果たすために愛する女を他の男のベッドに送らなければならない」(*)物語。確かにケーリー・グラントは、『泥棒成金』(55)や『北北西に進路を取れ』(59)でご陽気なイケオジを楽しそうに演じていたが、この映画では常に苦虫を噛み潰したような表情。他の作品と比べて、圧倒的に暗いのだ。



『汚名』(c)Photofest / Getty Images


 思い返してみれば、『ミッション:インポッシブル2』(00)も同趣の構造を有していた。これもまた、主人公イーサン・ハント(トム・クルーズ)が、情報を掴むために愛する女性を敵スパイの元に送り込む、という話。男女の愛が深ければ深いほど、その苦しみにさいなまれる。「愛と義務の葛藤」と言う、古典的なテーマを扱っているのだ。


 だが、『汚名』において最も悲しい運命を背負ったキャラクターは、アリシアでもデヴリンでもない。敵役のセバスチャンだ。おそらく彼は、デブリンよりも深く、絶望的なまでに、アリシアを愛している。そして彼女が、自分に心を寄せていないことも知ってしまっている。


 真実に直面し、よろよろと階段を登って母親の部屋に入り、「彼女はアメリカのスパイでした」と悲痛な告白をする場面が素晴らしい。カメラは彼を真正面ではなく、やや上方仰角から捉える。表情が映し出されないクローズアップ。それによって、灰色に沈む彼の心情を観客に想像させる。見事な演出と言うべきだろう。





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