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『バルカン超特急』正統派サスペンスにして、ユーモアたっぷりのロマンチック・コメディ ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『バルカン超特急』正統派サスペンスにして、ユーモアたっぷりのロマンチック・コメディ ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『バルカン超特急』あらすじ

ヨーロッパの架空の国バンドリカからロンドンへ向かう特急列車で、老婦人のミス・フロイが突然姿をくらましてしまう。アイリスとギルバートは他の乗客に彼女の行方を尋ねるが、皆「そんな老婦人は最初から列車に乗っていない」と証言。実はその裏では、大きな策謀が渦巻いていた…。


Index


“パリの消えた貴婦人”



 突然ですが、皆さんは「パリの消えた貴婦人」という都市伝説をご存じですか。舞台は1889年のパリ。この年はフランス革命100周年にあたり、それを記念する万国博覧会が開催されていた。この万博を一目見ようと、ある母娘がパリのパレスホテルにやってくる。ところが母親がホテルに着くなり体調を崩し、ホテルの医者に見せると「事態は深刻だから、他の医者に見せた方がいい」と言われてしまう。


 娘は慌てて馬車を捕まえ、医者を探しに行く。苦労の末に医者を連れてホテルに戻ってみると、母親の姿がない。ホテルの従業員に尋ねてみると、信じられない言葉が返ってくる。「そんな女性は存じ上げません。あなたは一人で宿泊されています」。母親を診察したホテルの医者を問いただしても、「そんな女性には会ったことがない」の一点張り。突然母親は、忽然とパリの街から姿をくらましてしまったのだ。まさに神隠しのようなミステリーである。


『バルカン超特急』予告


 実はこの母娘はインド帰りで、母親はペストに罹っていた。ホテルにチェックインするやいなや彼女は息を引き取ってしまうのだが、この事実を公表してしまうと、万博で人がごった返しているパリは大混乱に陥ってしまう。そこでホテル側は緘口令を敷き、関係者で口裏を合わせ、「母親はそもそも存在していない」という芝居を打っていたのだった。


 アルフレッド・ヒッチコックは、ピーター・ボグダノヴィッチとのインタビューで、この都市伝説が『バルカン超特急』(38)のストーリーに大きなインスパイアを受けたことを明かしている。本作の原題は『The Lady Vanishes』(消失した婦人)。ヨーロッパの架空の国バンドリカからロンドンへ向かう特急列車で、老婦人のミス・フロイ(メイ・ウィッティ)が突然姿をくらましてしまう。アイリス(マーガレット・ロックウッド)とギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)は他の乗客に彼女の行方を尋ねるが、皆「そんな老婦人は最初から列車に乗っていない」と証言。実はその裏では、大きな策謀が渦巻いていた…。


 オーソン・ウェルズは、この映画を11回観たという。フランソワ・トリュフォーは、ヒッチコック映画の中で最も好きな作品の一つと明言している。水野晴郎先生はこの映画のタイトルをもじって『シベリア超特急』を製作した。ヒッチコックの華麗なフィルモグラフィーの中でも、『バルカン超特急』は特筆すべき傑作サスペンス映画である。





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