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『汚名』トリュフォーが最も愛するヒッチコック作品である理由とは?

(c)Photofest / Getty Images

『汚名』トリュフォーが最も愛するヒッチコック作品である理由とは?

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小さな男の恋



 ヒッチコックはもともとセバスチャン役に、アカデミー賞に3度ノミネートされた実績を持つクリフトン・ウェッブを希望していた。しかし、プロデューサーのデヴィッド・O・セルズニックがクロード・レインズをゴリ推し。彼もまた、アカデミー賞に4度ノミネートされた名優だ(受賞は一度もなし)。『透明人間』(33)ではタイトルロールの透明人間、『スミス都へ行く』(39)では悪徳政治家など、個性の強い演技で知られ、イングリッド・バーグマンとは『カサブランカ』(42)で共演の経験もあった。


 結果的に、このキャスティングは大正解。『汚名』は、セバスチャンが“背が低い男”であることが重要だったからだ。フランソワ・トリュフォーはクロード・レインズについて、このように語っている。


 「クロード・レインズは、ロバート・ウォーカー(『見知らぬ乗客』/51)およびジョゼフ・コットン(『疑惑の影』/43)とともに、おそらく最もヒッチコック的な<悪役>ではないかと思うのです。(中略)クロード・レインズが小男であること、長身のイングリッド・バーグマンよりもずっと背が低い男であることもまた、重要な心理的要因になっているのではないでしょうか。自分よりもずっと背の高い女に恋する小さな男というのは、それだけですでにとても感動的です」(*)



『汚名』(c)Photofest / Getty Images


 クロード・レインズは170センチに満たない身長だが、イングリッド・バーグマンは175センチ(ちなみにケーリー・グラントは187センチ)。ヒッチコック曰く、二人が並ぶシーンを撮影する際には、レインズのために高い台を用意して、同じフレームに収めるようにしたのだと言う。遠くから二人が歩いてくるシーンを撮影する際には、わざわざスロープを用意して高さを合わせる苦労もあった。


 確かに、クロード・レインズが熱に浮かされたような表情で、美しいイングリッド・バーグマンを見上げる姿は感動的だ。そしてその非対称さゆえに、男の一方的な恋慕であることが浮き彫りとなる。おそらくそこに、トリュフォーは心を揺さぶられたのではないか。「自分よりもずっと背の高い女に恋する小さな男」とは、おそらくフランソワ・トリュフォー自身のことでもあるからだ。


 『ピアニストを撃て』のシャルル・アズナヴールがそうであるように、トリュフォーは『汚名』のクロード・レインズに、自分を重ね合わせたのではないだろうか。





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