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『逃走迷路』映画を貫く、自由と民主主義の精神 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『逃走迷路』映画を貫く、自由と民主主義の精神 ※注!ネタバレ含みます

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『逃走迷路』あらすじ

カリフォルニアの航空機工場で破壊工作と見られる火災が発生。現場でガソリン入りの消火器を手にしていたことで、容疑者とされたバリー(ロバート・カミングス)は、手錠をかけられたまま逃走。道中知り合ったパット(プリシラ・レイン)の協力も得て、事件の真相を突き止めるため、彼に消火器を手渡したフライ(ノーマン・ロイド)の行方を追う。


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隅々にまで行き渡ったエンターテインメント精神



 『三十九夜』(35)といい、『第3逃亡者』(37)といい、「犯人と間違えられた男が、無実を証明するために奮闘する」というストーリーラインは、アルフレッド・ヒッチコック先生の鉄板テンプレート。軍事工場爆破の濡れ衣を着せられたバリー(ロバート・カミングス)が、道中で知り合ったパット(プリシラ・レイン)と共に冒険を繰り広げる『逃走迷路』(42)もまた、その系譜に連なる作品だ。


 ヒッチコック本人も認めている通り、代表作の『北北西に進路を取れ』(59)は本作のリメイクとも言える。そのフィルモグラフィを通観してみても、非常に重要な映画であることは間違いない。だがインタビューでヒッチコックは、「しゃれたタッチでユーモアのある作品」であることは自画自賛しつつ、反省の弁も述べている。


「アイデアはたっぷりあったけれども、きちんと整理されずにバラバラに詰め込まれた感じだ。もっと丹念に練って煮詰めるべきだった。撮影に入る前に、むだなアイデアをすべて捨てて、必要なものだけをもっと凝縮して緊密に構成しておくべきだった」(*)


『逃走迷路』予告


 『逃走迷路』は、ストーリーが串団子状に連なる構造になっていて、とにかくシークエンスが盛りだくさん(何しろヒッチコックは、ユニバーサルに50を超えるセットを発注しているくらいなのだ)。ざっとストーリーを書き連ねてみても、主人公バリーが真犯人フライ(ノーマン・ロイド)を捕まえるためにディープ・スプリングス牧場に向かい、そこで破壊工作員の親玉トビン(オットー・クルーガー)と遭遇し、警察に捕まってしまうものの何とか脱出に成功し、逃げ込んだ小屋で盲目の紳士ミラー(ボウハン・グレイザー)に助けられ、その姪のパットと一緒に犯人探しをすることになり、途中でサーカスの一団に匿われたりしながらも、何とか目的地のソーダシティに辿り着くとそこには工作員がいて…という、なかなかのせわしなさ。


 一つ一つのシークエンスは、独創的なアイデアに溢れていて魅力的。「バリーが手錠に繋がれていることを、盲目のミラーはいつ気づくか」という状況設定は、いかにもヒッチコック的なサスペンスを起動させているし、骸骨人間、ヒゲ女、小人、シャム双生児が登場するサーカス団員とのシーンは、そこはかとないユーモアがある。


 惜しむらくは、前後関係がブツ切りになっているがために、ストーリーが有機的に繋がっていないこと。枝葉ばかりに気を取られてしまって、一本の幹として腰が据わっていないのだ。ヒッチコックが言うところの「きちんと整理されずにバラバラに詰め込まれた感じ」とは、おそらくそのあたりに起因しているのだろう。


 だが筆者は、構成を整理しきれていない荒削りさゆえに、ヒッチコック式作劇術のディティールを味わい尽くすことができる作品だと思っている。「とにかく観客を楽しませてやろう」という、サスペンスの神様のエンターテインメント精神が隅々を覆っているのだ。つまり、とってもチャーミングなのである。



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