自由の女神ー自由と民主主義のシンボル
筆者がもうひとつ印象深く感じたのは、『逃走迷路』のクライマックスを飾る舞台が自由の女神であることだ。自由と民主主義のシンボルであるこの像は、アメリカ合衆国のみならず、世界の平和のシンボルでもある。それゆえに自由の女神は、あまたの映画で崩壊の危機にさらされてきた。『猿の惑星』(68)、『ディープ・インパクト』(98)、『デイ・アフター・トゥモロー』(04)、『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)。女神像の破壊は、そのまま世界の終わりを意味する。
世界の平和のシンボルは、そのまま正義の使者として映画に登場することもある。『ゴーストバスターズ2』(89)では、悪のスライムに対抗するために、ゴーストバスターズの面々が自由の女神を動かして、世界の危機を救った。『メン・イン・ブラック2』(02)では、トーチにニューラライザーと呼ばれる装置が仕込まれており、それを発動させることで一般市民から異星人襲来の記憶を消去させ、世界の平和が保たれるという設定になっていた。
『逃走迷路』(c)Photofest / Getty Images
『逃走迷路』においても、自由の女神は独裁主義に鉄槌を下す民主主義のシンボルとして登場する。工作員のフライは、バリーの活躍によって戦艦アラスカ号爆破に失敗し、警察に追われて自由の女神に逃げ込む。やがてトーチから足を滑らせて転がり落ち、バリーが必死に袖を掴んで助けようとするも、落下して命を落とす。
自由の女神からの落下。それはすなわち独裁主義が転がり落ちることの暗喩であり、民主主義の高らかな勝利を意味している。しかもヒッチコックは、映画のラストに英語の「The End」ではなくラテン語の「Finis(終わり)」を使っている。それはドイツ、イタリアのヨーロッパ枢軸国が終焉を迎えることを示唆しているのだろう。
『逃走迷路』という映画を貫く、自由と民主主義の精神。グローバル資本主義を標榜し、世界が新自由主義へと舵を切った今だからこそ、“アメリカが抱いていたかつての夢”が一層眩しく見える。
(*)『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』晶文社
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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