レイティングとの戦い
フェイが執筆した最初の脚本(初期のタイトルは『Homeschool(ホームスクール)』)は、現状の映画よりもかなり下品で冒涜的な表現やFワードも相当入っていた(特にレジーナは『グッドフェローズ』/90のジョー・ペシよりも多くのFワードを持つキャラクターだった)。だが、スタジオの要請でPG13として公開する必要があったため、幾つかの場面で表現がオブラートに包まれることとなった。
例えば、カフェテリアでケイディが転校生の意識調査の協力を持ちかけられるシーン。突然、「Is your muffin was buttered?(マフィンにバターは塗っている?)」と聞かれるのだが、もともとこの台詞は「Is your cherry popped?(処女は失っている?)」だった。また、レジーナたちが学校中の生徒や先生の陰口を書き込んだ「Burn book(悪口ノート)」のシーンで「Amber D'Alessio made out with a Hot Dog(アンバー・ダレッシオはホットドックとイチャついていた)」との記述があるが、オリジナルでは「Amber D'Alessio masturbated with a frozen Hot Dog(アンバー・ダレッシオは冷凍ホットドッグで自慰行為をしていた)」とより直接的な表現になっていた。このような修正以外にも、未成年が飲酒している場面は画面に映さないようにする、レジーナの家にある裸体の銅像は局部を蔦で覆い隠すなど、PG13にするための配慮が徹底された。
『ミーン・ガールズ』(c)Photofest / Getty Images
ただ一方で、監督たちが当時のMPAA(アメリカ映画協会)と戦って残った台詞も存在する。体育館である生徒が発する「But I can’t help it if I’ve got a heavy flow and a wide-set vagina(でも生理が酷くてヴァギナが大きいからしょうがないじゃない)」という台詞を、MPAAは削除するように求めてきたが、監督はその時公開していた『俺たちニュースキャスター』(04)を引き合いに出し抵抗する。この作品では、ウィル・フェレルが勃起するシーンがありながらもPG13であった事実を武器に、「解剖学的な観点から自分の体の構造について話しているだけなのに、性的な文脈として捉えられるのは女性差別だ」と訴え、最終的にこの台詞を残すことに成功した。
相当な修正を要された本作ではあるが、完成した映画からは全くその過程はうかがえず、むしろ台詞の爆発的な面白さは白眉と言えるだろう。「Get in loser, we're going shopping(乗りな負け犬、買い物にいくよ)」「You wanna do something fun? You wanna go to Taco Bell?(気晴らししよう。タコベル食べに行く?)」「Is butter a carb?(バターって炭水化物だっけ?)」「I’m kind of psychic. I have a fifth sense.(実は霊感というか、第五感があるの)」といったユーモラスでパンチの効いた台詞が、休む間もなく全編に渡って繰り広げられる。その中でも最も有名な台詞が、グレッチェンの口癖である「Fetch(いいね)」だ。冒頭で触れたバラク・オバマのツイートでも引用されたのがこの言葉。劇中ではイングランドのスラングだと説明されているが、実際はスラングでもなんでもなく、ゼロからでっち上げてしまった偽物のスラングなのだそうだ。
これらの台詞はそのインパクトや汎用性から今でもミームやGIFとして広く流通しており、映画は知らなくてもこれらの形で『ミーン・ガールズ』に触れた人間も少なくないだろう。