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『春画先生』弓子のいる世界、彼女の決意

Ⓒ2023「春画先生」製作委員会

『春画先生』弓子のいる世界、彼女の決意

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隠す、見える



 『春画先生』には度々“隠す”というテーマが浮上する。春画に描かれた性器の交わりに焦点がいってしまうのを防ぐため、芳賀は文鎮で性器を隠す。部分を隠すことによって全体が見えてくることがある。あるいは部分をルーペで拡大することで見えてくるものがある。弓子は春画の中に様々な感情や技術を発見していく。弓子にレクチャーをしながら、徐々にトランス状態になっていく芳賀。発見の連続により恍惚の表情を浮かべる弓子。論文のアイデアが浮かんだのか、芳賀は急いでメモを取り始める。弓子は無償で春画について学ぶことへの罪悪感を述べる。このとき芳賀は、強引に弓子の手を引っ張り、家政婦として雇うことを宣言をする。芳賀の剥き出しな感情は、本作が狂っていく“乱れ”を導いている。


 隠すこと、拡大することによって全体が見えてくるという図は映画の構造そのものと似ている。映画はフレームによって切り取られた人生の“部分”を映すものであり、フレームの外にはさらに大きな世界が広がっている。またクローズアップという技術で細部を拡大することもできる。感情と技術。たとえばアルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』(54)は、映画の持つこの“覗き見”的な構造そのものを、感情的にも技術的にも作品に反映させている。その意味で芳賀の家がヒッチコックの『レベッカ』(40)の屋敷のように見えてくるのも興味深い。『レベッカ』の屋敷に飾られた祖先の肖像画が霊的に作品を支配していたのと同じように、亡くなった妻のイメージ、遺影はこの家と芳賀自身を支配している。


『春画先生』Ⓒ2023「春画先生」製作委員会


 「春画とワインの夕べ」というパーティーに向かう際、妻の着ていた衣装を着させる芳賀の倒錯的な行動を弓子は受け入れる。受け入れるというより、むしろ受けて立つと言ったほうがふさわしい。このときから、弓子の幽霊との戦い、三角関係は始まっている。このシーンは、むしろ弓子による宣戦布告と捉えることができる。ドレスを纏って階段から降りてくる弓子は既に戦闘モードに入っているのだ。


 また、貴重な春画を鑑賞する際に、ハンカチで口元を隠すマナーも面白い。飛沫を防ぐための鑑賞マナーだが、口元が隠れることで瞳が強調されることに気づく。登場人物が春画を前にどのように感じているかを、私たちは瞳の動き、輝きで知ることになる。ここでは瞳がクローズアップされることなく、感情がクローズアップされている。





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