怒れるジョン・カーペンターからの一撃
「レーガンは貧困層やホームレスを増やし労働組合を破壊し、自由主義を攻撃した。私にはそれが許せなかったんだ」監督のカーペンターは『ゼイリブ』製作の動機をそう語っている。
1981年、アメリカ合衆国大統領に就任したロナルド・レーガンはレーガノミクスと後に呼ばれる経済政策を推進した。「小さな政府」を志向し、福祉や医療の予算を削減、市場の競争原理に社会の先行きをゆだねた。結果、アメリカでは、富裕層と貧困層の二極化が進み、製造業は海外へ流出、金が金を生む「金融」がアメリカの「産業」となっていった。
カーペンターはさらに語る。「SFやホラー文学の基本と言えばやはり ラヴクラフトだ。ラヴクラフトの作品では、現実を隠すベールを取ると、その奥にラヴクラフトらしさが垣間見られる。この映画でもベールを取り入れた。つまり共和党やエイリアンだ。彼らはただ消費し我々を消費者にしようとする。その風潮は決して終わらない。いつも私たちの周りで暴れまわっているんだ。」
『ゼイリブ』(c)1988 StudioCanal. All Rights Reserved.
そんな現状への異議申し立てが、映画『ゼイリブ』となった。同作で描かれる、富裕層と貧困層の対比。空気を読み、現状追認的にしか物事を考えなくなっている社会の描写は、現代の日本でこそ大きなインパクトを持ち得る。しかし、そんな主張だけだったら、『ゼイリブ』は単なる説教くさい陳腐な作品になっていただろう。この作品をカルト足らしめたのは、カーペンターのある種の「バランス感覚の欠如」だ。