原点はハワード・ホークスの西部劇
カーペンターは人間が地理的、肉体的、精神的に閉じ込められる映画を撮りつづけてきた。
最初期の作品『 要塞警察』(76)では、ギャングが包囲する警察署に閉じ込められた囚人と警官たちの共闘を描き、『 ニューヨーク1997』(81)では、街全体が監獄と化したニューヨークに取り残された大統領を救い出すことが主人公の使命だった。『 遊星からの物体X』(82)は南極基地にエイリアンと共に閉じ込められた男たちが主人公。不気味なマスクの殺人鬼ブギーマンの恐怖を描いた『 ハロウィン』(78)でさえ、主人公は逃げ惑ううちに、どんどん狭い場所へと入り込み、自らを閉じ込めていく。現時点での最新作の邦題が『 ザ・ウォード/監禁病棟』(11)というのも、彼の作家性を図らずもよく表している。カーペンターはなぜ、そこまでして閉じ込められる人々の戦いを描くのか。それは彼の少年期の映画体験が大きく関係している。
『 ザ・ウォード/監禁病棟』予告
カーペンターは子供の頃に出会ったある作品によって映画監督を志した。ハワード・ホークス監督の西部劇『
リオ・ブラボー』(59)だ。ジョン・ウェイン主演の痛快活劇に魅了されたカーペンター少年は映画館に通い詰め、ストーリーを体に刷り込むかのように繰り返し鑑賞したという。
保安官のチャンス(ジョン・ウェイン)は殺人犯ジョーを逮捕するが、その仲間が街を封鎖し、ジョーを取り返そうとする。チャンスは仲間と共に保安官事務所に立てこもり、無法者たちとの戦いに臨む。まさに閉じ込められた男たちが、その状況を突破する筋立てだ。
この作品のプロットは先述の『要塞警察』にほぼそのまま取り入れられ、後の『遊星からの物体X』、『 ゴースト・オブ・マーズ』(01)にも大きな影響を与えている。
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若きカーペンターは、以降、ハワード・ホークス、ジョン・ヒューストン、ヒッチコックと、アメリカ映画の王道とも言える監督たちの作品を見ながら映画作りを学んでいった。南カリフォルニア大学に進学すると、それら伝説的監督たちと直接話す機会にも恵まれたという。だからカーペンターは今も上記の監督たちへの敬意を隠さない(最も敬愛するハワード・ホークスの『遊星よりの物体X』(51)をリメイクしたのは奇縁というべきか)。