サム・ライミの作家性とは
『死霊のはらわた』は完全な自主制作映画のため、サム・ライミの作家性がストレートに現れている。それは、2013年のリメイク版『死霊のはらわた』と見比べるとわかりやすい。設定の微差こそあるが、だいたい同じ流れで物語が進み、血塗れ残酷描写満載のこの2作は、不思議な事に何故か印象は全く異なる。
リメイク版は、死霊によって親友同士が血みどろの殺し合いをしなくてはならなくなるという物語を悲壮感と激痛描写満載で描いており、物語を順当に解釈していけば決して間違っていないアプローチである。一方、オリジナルの方はどうだろうか。愛するものを手にかけなくてはならない悲痛さは確かにあるものの、同時に、死霊に吹き飛ばされるたびに家具を破壊したり、巨大な棒で死霊を殴りつけたりする主人公や、トランプのカードを言い当てながら急に憑依する死霊など、見ようによれば笑えてしまうシーンが数多く存在する。このホラー映画らしかぬユーモアの散りばめこそ、「面白ければジャンルの垣根を飛び越える表現をしてしまう」サム・ライミの作家性ではないかと、個人的に感じている。
リメイク版『死霊のはらわた』予告
『クイック&デッド』(95)の漫画的なショットが連続する決闘シーン、『スパイダーマン2』(04)ドクター・オクトパスが病院で大暴れするシーンで突如始まるホラー演出、『スペル』(09)の笑いか恐怖か判断が難しい演出の数々、『 ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(22)のMCUとは思えないヒーロー虐殺シーンなど、観客を混乱させてしまうことさえ厭わない、ジャンルが混合してしまう瞬間こそ、サム・ライミ映画を観る楽しさだ。その極北が、ファンタジー/アクション/ホラー/コメディというジャンルが大渋滞した『死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット』(93)なのは間違いない。
「死霊のはらわた」は今も取り憑き続ける
『死霊のはらわた』は当初興行収入はあまり良くはなかったものの、口コミなどで徐々に人気を上げていき最終的にはヒットを勝ち取った。その後、『死霊のはらわたII』(87)と『死霊のはらわたIII/キャプテン・スーパーマーケット』の2本の続編が制作され、オリジナル三部作の直接的な続編として「死霊のはらわた リターンズ」(15~18)のドラマシリーズが放映された。さらに、フランチャイズは映像の枠を超え、2003年には「EVIL DEAD THE MUSICAL~死霊のはらわた~」というタイトルでミュージカル化も果たし、ゲームやコミックまで作られている。特にコミックでは、色々なキャラクターとのクロスオーバーまで実現しており、ゾンビになったアヴェンジャーズたちと戦う「Marvel Zombies vs. Army of Darkness」(07)や、ジェイソンやフレディ・クルーガーと戦う「Freddy vs. Jason vs. Ash」(07~08)まで存在する。
また、熱狂的なファンたちは作中の死霊の呼称である「デッドダイツ(Deadites)」と呼ばれ、21年には彼らについてのドキュメンタリー映画『Hail To The Deadites』 (21)が公開された。このようなフランチャイズ/ファンダムの広がりが、冒頭に触れた『死霊のはらわた ライジング』の大成功に繋がっているのである。約40年前、若者たちが知恵と情熱を武器にがむしゃらに作り上げた『死霊のはらわた』は、今でも観客の心に取り憑いて離れないのだ。
参考資料:
"Sam Raimi Initially Hated The Title The Evil Dead: ‘How Can Something Be Evil And Dead?" (March 16, 2023) Ben Travis EMPIRE
"How Sam Raimi Turned a Prototype Short Film Into the 'Evil Dead' Franchise" (February 9, 2023) SAMUEL WILLIAMSON COLLIDER
"The Iconic Horror Movie You Won’t Believe Premiered at Cannes" (MAY 18 2023) SAMANTHA GRAVES COLLIDER
"Sam Raimi Gives Us an Evil Dead History Lesson" (October 31, 2015) SCOTT COLLURA IGN
"40 Years Before the ‘Multiverse of Madness’: Read Stephen King’s 1982 Review That Saved ‘The Evil Dead’" (May 9, 2022) John Squires Bloody Disgusting!
"40 Years Ago: The Evil Dead Changed Film for Good" (October 15, 2021) Troy Brownfield The Saturday Evening Post
"The Disgusting Truth Behind Evil Dead's Melting Corpse Scene" (December 10, 2021) WITNEY SEIBOLD /Film
"The Evil Dead's Brutal Shoot Was Too Much For Most Of The Cast To Take" (October 7, 2022) WITNEY SEIBOLD /Film
"Director talks mixing comedy, horror in moviemaking" (May 3, 2017) Emily Chaiet, The Daily Northwestern
"Sam Raimi’s The Evil Dead remains a masterpiece in crudity" (October 29, 2015) David Konow Consequence
"Before A24's Brand of Indie Horror, There Was The Evil Dead" (APRIL 15, 2023) CHRISHAUN BAKER INVERSE
"‘Evil Dead Rise’ Could Surprise With Potential $20M+ Opening As ‘Super Mario Bros’ Stay In Charge - Box Office Preview" (APRIL 19, 2023) Anthony D'Alessandro DEADLINE
"Sam Raimi "Darkman" 8/4/90 - Bobbie Wygant Archive" Youtube
「サム・ライミのすべて 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』への軌跡」2022年 Pヴァイン
高橋ヨシキ「暗黒映画評論 続悪魔が憐れむ歌」2015年 洋泉社
文:島田元輝
太陽企画「move-」チームメンバー。ジャンル映画愛好家。最近は、VHS以降、日本でソフト化されていない映画を発掘する「VHS考古学者」みたいなことを精力的にやってます。
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