キャスリン・ビグローが描く男同士の関係
キアヌ・リーブスが演じた新米FBI捜査官ジョニー・ユタは、かなり面白いキャラクターだ。訓練校を極めて優秀な成績で卒業しロサンゼルスに配属されるや、さっそく挑発的な態度を取る。「私の部下なら、砂糖を抜いた食生活をしろ」と上司に命じられると目の前でドーナツを頬張るし、相棒となるベテラン捜査官に「もっとやる気を出せ、熱くなれよ」と奮起をうながす。よく言えば反骨精神のある一本気な性格だが、いささか度を越しているようにも見える。
とはいえ、そんなジョニー・ユタの熱血は、相棒のパパス(ゲイリー・ビジー)の琴線に触れたようだ。それから2人は、多発する銀行強盗事件を密に協力しながら追っていくこととなる。そのパパスは防犯映像の犯人の日焼けから、「ホシはサーフィン野郎だ」と見破り、ロスのビーチでユタに未経験のサーフィンに挑戦させ、潜入捜査を促す。ちなみに彼を演じたゲイリー・ビジーは、青春サーフィン映画『ビッグ・ウェンズデー』(78)の出演でも知られている。
『ハートブルー』(c)Photofest / Getty Images
面白いのは、ここからだ。ジョニー・ユタはサーフィンの練習を繰り返し、サーファー仲間の女性タイラー(ロリ・ペティ)との関係を深めていく。その熱中ぶりや思い入れは潜入捜査の域を超え、分裂したもう一つの人生が生まれ始めるのだ。そしてついに、パトリック・スウェイジ演じる、サーフィンのカリスマ、ボーディと運命の出会いを果たす。仏教用語でブッダの智慧を指す「菩提(ボーディ)」が、役名の由来であるようだ。
ボーディという人物は案の定、銀行強盗グループの頭目でもあるわけだが、潜入捜査のなかで、ユタは彼の自由で豪快、何物にも縛られない生き方に憧れを抱いていく。銀行強盗犯を追いつめるシーンで、犯人がボーディだと察しているユタは、銃の引き金に指をかけるが、どうしても撃つことができず空中へ連射する。この男同士における葛藤の描写は、同性愛的なニュアンスをも感じられるものとなっている。
奇妙なのは、緊迫した局面でもサーフィンやスカイダイビングに興じる場面があるところだ。劇中でスカイダイブしながら「神とのセックスだ!」と叫ぶセリフがあるように、ユタとボーディの間に肉体関係はないものの、このエクストリームスポーツが、ある種セックスの代替行為になっていると解釈することができる。本作は大きな意味では、ある種のラブストーリーなのだ。この男性同士のマッチョイズムを介した親密な描写は『ハート・ロッカー』でも見られるように、ビグロー監督の美的表現にかかわる重要な要素だと考えられる。