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『ハートブルー』キャスリン・ビグローの美学が成立させたアクション映画としてのバランス

(c)Photofest / Getty Images

『ハートブルー』キャスリン・ビグローの美学が成立させたアクション映画としてのバランス

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アクション映画としてのバランス



 ビグロー監督は、もともと現代アーティストとして活動をしていただけあって、根底の部分で映画はアートだと信じているところがあるように感じられる。アクション映画をアクション映画として撮るだけでは満足せず、必要以上に作品に美的要素を組み込ませようと、さまざまな工夫をしている。クライマックスへと向かう飛行機の機影が山肌に映る動きが写される感覚的なカットがあったり、20代でこの世を去ることになる、クリストファー・ペティエットの10代の鮮烈な美しさを、端役ながら画面に大きく映し出そうとしていることからも、それが分かる。


 その意味で本作『ハートブルー』は、アクション映画としてかなり変則的な内容となっているといえるだろう。例えば『ダイ・ハード』や『スピード』では、あくまでアクションやサスペンス部分が軸となり、人間ドラマや恋愛描写は魅力として用意されているものの、比較的小さい要素として扱われている。作品全体が散漫な印象にならないようにするために、このように主題やジャンルを絞ることは、必要なことだといえる。


『ハートブルー』予告


 対して『ハートブルー』のバランスは、どう考えても悪いと判断するほかない。何しろ、青春や恋愛、そして男同士の憧れの関係などの要素が、アーティスティックに表現され、それがアクションやサスペンスと同じくらいの熱量で、前へ前へと出てくるのである。表現したいものを腕いっぱいに抱きしめたまま走り抜けようとするのだ。通常なら、取捨選択ができていない、独りよがりな失敗作と言われてしまう内容だ。


 しかし本作が、すんでのところで空回りしていないのは、そんな常軌を逸する熱意に応えるだけの過剰さが備わっているからだろう。若さに溢れたキアヌ・リーブスは、人生を変えるメジャー大作への最初の挑戦として満を持して果敢に役に挑み、爽やかさと危なっかしさが混在する、直線的な弾丸のような狂気を纏っている。器用さはないものの、だからこそ演技の枠を超えてジョニー・ユタそのものになりきり、決死のスカイダイブシーンの説得力を高めている。


 ボーディ役のパトリック・スウェイジは、役同様にサーフィンやスカイダイビングに興じ、何度も何度も自身で危険な撮影に臨み、見事なパフォーマンスを見せている。それもそのはずで、50回以上も飛行機から飛び降りているというのである。どう考えてもやり過ぎだ。かつて『アウトサイダー』(83)で共演したトム・クルーズは、『ミッション:インポッシブル』シリーズなどでも同じようなエクストリームな撮影を続けているが、その先鞭をつけていたのがパトリック・スウェイジだったといえよう。



『ハートブルー』(c)Photofest / Getty Images


 一般的な感覚を超えた「スリル・ジャンキー」と呼ばれる、ある種の精神的な領域で生きるボーディの生き方は、やはりスウェイジと一体化している。そんな、より自由な世界へ飛び立とうとする挑戦心を、ともに共有したキアヌことユタは、悟りを得たかのように新たな人生の扉を開いていく。通常、アクション映画はクライマックスの高揚を通過して、“こちら側”に帰ってくる。しかし本作の主人公たちは、“あちら側”へと去っていくのである。そして彼らの生き様を見せることで、観客の前にも自由への扉を開こうとする……こんなアクション作品は稀有といえるだろう。


 しかし、本作に非常に似たアクション映画がないわけではない。世界的な超大ヒットシリーズの第1作『ワイルド・スピード』(01)は、エクストリームスポーツが乗用車に変わっただけで、ほとんど本作の設定をそのまま引き継いだかのようなストーリーとなっている。それを考えると、やはり本作『ハートブルー』は、評価されている以上に大きな存在だったと思えるのである。



文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

Twitter:@kmovie



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