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『ヘル・レイザー』その戦慄の美学は、究極の快楽か、究極の痛みか

© 1987 New World Pictures. All Rights Reserved.

『ヘル・レイザー』その戦慄の美学は、究極の快楽か、究極の痛みか

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究極の快楽=究極の痛み



 物語は、フランク(ショーン・チャップマン)がルマルシャンの箱と呼ばれるパズルボックスをモロッコの地で入手するところから始まる。享楽主義者のフランクはこの箱を使って異世界の扉を開き、“究極の快楽”を手に入れようとしていた。すると彼はセノバイトたちによって体を引き裂かれ、この世から消滅してしまう。彼を待ち受けていたのは、究極の快楽とは究極の痛みであるという、サディズムとマゾヒズムの煉獄。例えるならルマルシャンの箱とは、超極端なサディスト=セノバイトのパートナーに成り得るマゾヒストを探し出すための、マッチング・アプリだったのである。


 しかし、享楽の限りを尽くしてきたフランクをもってしても、ピンヘッドたちが提供する“究極の快楽”は耐え難いものだった。興味深いのは、セノバイトとは人間を破滅に追いやる悪魔ではなく、別次元からやってきた快楽の<探検家>であること。『ヘル・レイザー』に決定する前の仮タイトルが「Sadomasochists from Beyond the Grave(墓場から来たサドマゾヒストたち)」だったことにも、それは顕著だ。彼らが求める探検は、結果的に一般ピーポーにとっては地獄でしかないのだけれど。


 ピンヘッドを演じたダグ・ブラッドレイは、クライブ・バーカーに役作りについて尋ねたところ、「病院の管理者、外科医として考えてほしい。そこに病棟はなく、手術室しかない。彼はメスを振るう人物だけでなく、タイムテーブルを維持する人でもある」(*2)というアドバイスが返ってきたことを明かしている。カトリック教会のモチーフがセノバイトのデザインに影響を与えていたことからも、彼らはある種の救済者なのだろう。



『ヘル・レイザー』© 1987 New World Pictures. All Rights Reserved.


 セノバイトと接触するキーアイテムが、パズルボックスであることも非常に興味深い。クライヴ・バーカーはそのアイデアについて、こう語っている。


「魔法のシンボルで床に円を描くのは古臭く感じたので、子供の頃に覚えていたことに戻ったんだよ。私の祖父は船の料理長で、遠東から奇妙で小さなおもちゃを持ち帰ってきた。その一つがパズルボックスで、長い間私を魅了した。(中略)だから、地獄の扉を開ける者に提示されるのがパズルボックスというアイデアは、とても自然に浮かんだんだ」(*3)


 ルマルシャンの箱とは災厄を引き起こすパンドラの箱なのではなく、異文化・異教にアクセスするためのキー・アイテムなのだ。新しい世界への入り口、未知なる宇宙との邂逅。それは、『ヘル・レイザー』という異形の映画にアクセスするための手続きに似ている。




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