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『ヘル・レイザー』その戦慄の美学は、究極の快楽か、究極の痛みか

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『ヘル・レイザー』その戦慄の美学は、究極の快楽か、究極の痛みか

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『ヘル・レイザー』あらすじ

極限の快楽をもたらす謎のパズル・ボックスを手に入れたフランクは、パズルを解くと同時に魔界から現われた魔道士によって八つ裂きにされに肉体を失った。数年後、行方不明のフランクの屋敷に弟ラリーと妻ジュリアが移り住むが、怪我をしたラリーの血によってフランクが覚醒、かつて愛人だったジュリアに生贄の血肉を捧げさせて復活しようと目論む。ラリーの先妻の娘カースティは、継母ジュリアの怪しい行動を探るうち、屋根裏で変わり果てた姿のフランクと遭遇、恐るべき計画を知るが、地獄への扉はすでに開かれようとしていた。


Index


ゴシック・カルチャーの文脈から生まれたピンヘッド



 サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(81)、ジョン・カーペンター監督の『遊星からの物体X』(82)、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(86)…。大量のホラームービーが狂い咲いた80年代。そんな百花繚乱な時代の終わりに、イギリスから異色の恐怖映画が届けられる。戦慄の美学に貫かれた、クライヴ・バーカー監督の『ヘル・レイザー』(87)。続編・関連作品は10本を数え、2022年にはリブート作品も作られている(日本未公開)。スティーヴン・キングは、「私はホラーの未来を見た。彼の名前はクライヴ・バーカー」という賛辞を送った。


 少なくとも筆者にとって、『悪魔のいけにえ』(74)のレザーフェイス、『13日の金曜日』(80)のジェイソン、『エルム街の悪夢』(84)のフレディ・クルーガー、そして『チャイルド・プレイ』(88)のチャッキーよりも、『ヘル・レイザー』に登場する地獄の魔道士ピンヘッドの方が、はるかに恐ろしい存在である。いやもう、とにかくビジュアルが怖すぎ。白塗りスキンヘッドで、顔一面釘だらけで、オンリー黒目。レンタルショップで、彼の大写しの顔がデカデカとプリントされたDVDジャケットをうっかり見てしまうたび、恐怖に震え上がっていた。ホラー映画は最恐キャラたちのショウケースだが、個人的にピンヘッドは頭一つ抜けていると思う。


『ヘル・レイザー』予告


 原作のホラー小説「The Hellbound Heart(地獄に縛られた心)」で、ピンヘッドは決して目立つキャラクターとしては書かれてはいなかった。原作者のクライヴ・バーカー自ら監督・脚本を手がけた映画でも、出演時間は決して多くはない。だがその強烈なインパクトは、観客たちの脳裏にしっかりと刻まれた。映画を作ったあとになって、クライヴ・バーカーはこの魔道士が想像以上にアイコニックな存在であることを知る。


「映画が公開された直後、ほぼすべての印刷された写真が、頭にピンを刺した男のものであることに気づいた。それは何かを物語っている。人々は、映画を識別するためのイメージを選んでいたんだ」(*1)


 セノバイト(魔道士)のデザインは、カトリック教会、パンク・ファッション、そしてSMクラブのイメージをミックスして創り上げたものだという。ザ・キュアーヴェルヴェット・アンダーグラウンドデヴィッド・ボウイに代表されるポストパンクの一派として生まれたゴシック・ロックは、<ゴス>という大きなカルチャーを形成し、フェティッシュなファッション・スタイルを生み出した。ピンヘッドもまた、そのオルタナティヴなゴシック・カルチャー・シーンから誕生したものと言えるだろう。ゴシック建築の廃墟に抗しがたい魅力を感じてしまうように、ピンヘッドの造形にはサタニックな魅力が備わっている。




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