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『ターミナル』内から外への越境、刻印された難民というテーマ

(c)Photofest / Getty Images

『ターミナル』内から外への越境、刻印された難民というテーマ

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アンドリュー・ニコルとスピルバーグが掲げるテーマ



 アンドリュー・ニコルは、“越境”をテーマに映画を創り続けてきたクリエイターだ。初監督作品『ガタカ』(97)は、遺伝子操作によって生まれた“適性者”が社会を支配する近未来を舞台に、通常妊娠で生まれた“不適正者”が夢を掴もうとするSFサスペンス。脚本を手掛けた『トゥルーマン・ショー』(98)は、自分の全人生がカメラで生中継されている男が、虚構から現実の世界に飛び立とうとする異色のコメディ。『TIME/タイム』(11)では、時間が通貨となったディストピアで主人公が奮闘する。


 既存のシステムを破壊して、その向こう側へ越境しようとするまでのプロセス。それが、アンドリュー・ニコルが信ずる物語の基本フォーマットだ。『ターミナル』でも、内から外への飛翔というモチーフが明快なまでに織り込まれている。彼自身、そのことには非常に自覚的だった。


「テーマが『トゥルーマン・ショー』に近すぎることを懸念していた。 (中略)だから、脚本や監督を引き受けたくなかったんだ。 他の誰かの意見を取り入れた方がいいと思ってね」(*3)



『ターミナル』(c)Photofest / Getty Images


 一方、スティーヴン・スピルバーグというクリエイターの視点でこの物語を俯瞰してみると、“難民”というテーマが浮かび上がってくる。それは彼のフィルモグラフィーを通して扱われてきたモチーフだ。異星人が地球に置き去りにされてしまう『E.T.』(82)、上海の地で少年が両親と離ればなれになってしまう『太陽の帝国』(87)、ロボットが母親の愛を求めてさまよう『A.I.』(01)、宇宙からの侵略者によって人類がすべて“難民”状態となる『宇宙戦争』。ティラノサウルスの子供が人間によってさらわれてしまう『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』(97)は、恐竜が“難民”化する映画とも言える。


 スピルバーグ自身、イスラエルが建国されるまでは“国を持たざる民族”だったユダヤ人。“難民”というテーマは、彼のルーツに起因するところが少なからずあるのだろう。しかし筆者は、それよりもスピルバーグの個人的事情が大きく作用している気がしてならない。我々は彼の半自伝映画『フェイブルマンズ』(22)で、両親の離婚という家族の悲劇を目撃している。少年時代に抱えた巨大なトラウマが、“捨て子”というオブセッションとなり、やがて“難民”というテーマへと肥大化したのではないか。クラコウジアという国家がクーデターによって一時的に崩壊し、難民となってしまったビクターもまた、信じる者に裏切られた“捨て子”なのである。


 アンドリュー・ニコルの掲げる“越境”、そしてスティーヴン・スピルバーグが掲げる“難民”というテーマが掛け合わされることによって、『ターミナル』という作品は産み落とされた。だからこそ、トム・ハンクスが空港のドアに向かって歩みを進めていくショットは、あまりにも神々しいのである。


(*1)(*2)https://www.youtube.com/watch?v=YXsT36-syjg

(*3)https://www.popentertainmentarchives.com/post/andrew-niccol-the-art-of-lord-of-war



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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