最初の商売
「この映画には友情についても描かれている。友情とは何か、親密さとは何か。私にとってはラブストーリーでもある」(ケリー・ライカート)*
ケリー・ライカートは、男性的な支配の西部開拓時代を描きながら、その強さを分解して再び組み立てる。クッキーは食材の採集中に全裸の男性と遭遇する。アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画のような超自然的な展開。クッキーはキング・ルーを名乗るこの男性(オリオン・リー)のことをネイティブ・アメリカンと間違える。
アメリカの未開の地で謎の中国人に出会うというアイデアが面白い。キング・ルー=オリオン・リーの、やさしく落ち着いたトーンの声、話し方が耳に残る。キング・ルーの声のトーンには知性がある。クッキーが行動を共にしている野蛮な毛皮狩猟たちとは対照的だ。支配欲の塊のような毛皮狩猟たちは、くだらない理由で言い争いをはじめる。ケリー・ライカートは古典的な三馬鹿トリオを描く調子で、彼らの無能ぶりを暴く。同時にこのトリオの中にも上下関係があることを描く。ケリー・ライカートのすべての映画は、コミュニティのどこに力があるのかを注意深く観察している。しかし毛皮狩猟のトリオとは対照的に、クッキーとキング・ルーの間には上下関係が感じられない。互いに漂流者である二人の間にはフラットな、友情にも似たものが生まれている。
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二年後に偶然再会したクッキーとキング・ルーは共同生活をはじめる。二人の生活が興味深いのは、共同生活をはじめたときから既に役割分担ができていることだ。薪を割るキング・ルー。掃除をはじめるクッキー。そして花を摘み、部屋に飾るクッキー。言葉を交わさずに、生活の役割分担が自然と決まっていく。しかも二人の役割には、いわゆる“男性的・女性的”と形容されるような区分が感じられない。二人はただ単に自分にできることを見つけて、それをこなしているだけなのだ。そこが美しい。
「歴史は始まっていない。今回は俺たちのほうが先に着いた」というキング・ルーのセリフは、未開の地にまだ歴史がないことを指しているだけなく、二人の“新しい”生活にも当てはまるのだろう。最初の土地、最初の人間、最初の生活。この土地に送られてきた牛の名前が“イヴ”であることは象徴的だ(愛称は“イーヴィー”)。ほったて小屋のような二人の居住空間は、地上の楽園、エデンのようでもある。そしてイーヴィーのつぶらな瞳は、クッキーと本当によく似ている。クッキーの料理の才能に気づいたキング・ルーは、二人で商売を始めることを提案する。最初の商売が始まろうとしている。